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48 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:00:57 ID:???0

日本国内には、いたる所に神社や祠がある。
その中には人に忘れ去られ、放置されているものも少なくない。
普通の日本人ならば、その様な神社や祠であっても、敢えて犯す者はいない。
日本人特有の宗教観から来る「畏れ」が、ある意味DNAレベルで禁忌とするからだ。
かかる「畏れ」は、異民族、異教徒の宗教施設に対しても向けられる。
また、このような「畏れ」や「敬虔さ」は、多くの民族に程度の差はあれ、共通するものである。
しかし、そういったものに畏れを感じずに暴いたり、安置されている祭具などを盗み出す者たちがいる。
その多くは、日本での生活暦の浅いニューカマーの韓国人達だ。
詳しい事は判らないが、朝鮮民族は単一民族でありながら「民族の神」を持たない稀有な存在だという。
神を持たないが故に、時として絶対に犯してはならない神域を犯してしまう。
「神」の加護を持たない身で神罰を受け自滅して行く者が後を絶たないということだ。
この事件もそんな事件の一つだと思っていた。
最初のうちは・・・

ある寒い冬の日だった。
俺は、キムさんの運転手兼ボディーガードとして、久しぶりにシンさんの元を訪れていた。
「本職」の権さん達ではなく、俺が随伴したのは、シンさんの指名だったからだ。
シンさんの顔は明らかに青褪めていた。
キムさんもかなり深刻な様子だった。
やがて、マサさんもやって来るという。
重苦しい空気の中、2・3時間待っていると、マサさんが一人の男を伴ってやって来た。
マサさんの連れてきた男は、木島という日本人だった。
上背は無いが鍛え抜かれた体をしており、眼光や雰囲気で相当な「修行」をした人物と感じられた。
これから何が起こるかは判らないが、ただならぬ事態なのは俺にも理解できた。


50 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:02:46 ID:???0
木島は手にしていたアタッシュケースから古ぼけた白黒写真と黄ばんでボロボロになった古いノートを出した。
シンさんも、テーブルの上にファイルを広げ、数枚の四つ切のカラー写真を出した。
両方の写真の被写体は、どうやら同じ物のようだ。
それは、三本の足と蓋のある「金属製の壷」だった。
その壷は朝鮮のものらしく、かなり古そうだった。
形は丸っこい、オンギ(甕器)と呼ばれる家庭用のキムチ壷に似ている。
ただ、金属製である事と底の部分に3本の足があること、表面に何かの文様がレリーフされているのが特殊だった。
表面の文様と形状に、呪術に造詣の深いシンさんやキムさんは思い当たるところがあったようだ。
それは、一種の「蟲毒」に用いられた物だった。
壷の文様は「蟲毒」の術に長けたある呪術師の一族に特徴的な文様なのだという。
しかし、通常、「蟲毒」に使われるのは陶器製の壷であり金属器は使われない。
ましてや、この壷は「鉄器」であり、「蟲毒」の器としては恐ろしく特殊な存在だという事だ。

韓国では金属製の器が好んで使用されるが、伝統的な物の殆どがユギ(鍮器)と呼ばれる真鍮製品なのだという。
李氏朝鮮では、初期から金属器の使用が奨励され、食器や祭具、楽器や農具に至るまであらゆる金属製品が作り出されたそうだ。
だが、その素材の殆どが青銅或いは真鍮だった。
高い製鉄・金属加工技術を持ちながら、朝鮮半島では鉄は希少で広く一般に普及する事は無かったらしい。
温帯気候で樹木の生育の早い日本と異なり、大陸性の寒冷な気候の朝鮮半島では樹木の生育が遅い。
それ故、製鉄に大量に必要とされる燃料の木炭が不足していたのだ。
昔の中国や朝鮮は、刀剣などを鉄製品の原料・素材として日本から輸入しており、それは非常に高価だった。
その様な貴重な鉄器を破壊して使い捨てるのが原則の蟲毒の器に用いる事は、呪術上の意味合いからもあり得ない事なのだと言う。


52 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:04:33 ID:???0
この壷は、柳という古物商から在日ネットワークを通じて照会されて来た物だった。
柳は、盗品売買の噂が絶えず、在日社会でも非常に評判の悪い人物だった。
本来なら、シンさんはこのような男は絶対に相手にしない。
しかし、流れて来た写真を見てシンさんは驚愕した。
それは、日韓併合以前の韓国で隠然たる力を持っていた、ある呪術師一族が「呪術」で用いた文様だったからだ。
なぜ、そんなものが日本にあるのか?

その呪術師一族は、韓国の「光復」のかなり前に滅んでしまっていた。
朝鮮総督府は「公衆衛生」のため、朝鮮半島に根深く浸透していたシャーマン治療を禁止し、近代医学を普及させた。
その影で、多くの呪術師や祈祷師達は恭順して伝来の呪術を捨てるか、弾圧されるかの二者択一を迫られた。
多くの呪術師が地下に潜ったのに対し、敢然と叛旗を翻した者も少数ながらいた。
この呪術師一族もその少数者の1つだった。


シンさんの調べによると、柳の照会の背景は以下のようなものだった。

日本全国で、高齢の資産家宅や旧家の蔵、寺や神社を荒らし回っていた韓国人の窃盗団がいた。
この窃盗団は「流し」の犯行の他に、「顧客」の「注文」に応じた仕事もしていたらしい。
日本の美術品、特に仏像や刀剣の類は韓国内や欧米諸国で熱心なコレクターがいるのだという。
山道や街道沿いに建てられた、ありふれた旧い地蔵などにもかなりの値が付くという事だ。
どうやら問題の鉄壷は、ある人物の「注文」により盗み出されたものだったらしい。
だが、「仕事」を終えてすぐにその窃盗団に異変が起こった。
窃盗団のメンバーが、僅か数日間で次々と怪死を遂げたのだ。


柳の元に鉄壷を持ち込んだのは、窃盗団の最後の生き残りである朴という男だった。
朴は日本国内で逮捕暦があり、他の仕事で下手を打った為に身を隠しており、詳しい事情を知らなかった。
朴は盗品の隠し場所から、他の数点の美術品と共に鉄壷を持ち出し、伝のあった柳の元に持ち込んだ。
相次ぐ仲間の死と、自分の身辺に迫る気配に恐怖を覚え、高飛びしようと考えたのだ。
盗品ブローカーである柳は、朴の持ち込んだ美術品を買い入れた。
朴の持ち込んだ盗品の中で、問題の鉄壷は最初「ガラクタ」扱いだった。
しかし、朴が盗品を持ち込んですぐに鉄壷を買いたいという人物が現われた。
その男の提示した金額はかなり破格のものだった。
だが、柳は「商売の鉄則」として、仕入れた盗品を特定の業者以外の第三者に直接転売する事は無かった。
何処で柳が盗品を扱っている事や鉄壷の存在を知ったのか謎であったし、金を持ったまま首を吊った朴の死が柳を慎重にさせた。
柳は鉄壷について同業者に照会し、購入希望者の背後を探った。


55 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:06:52 ID:???0
柳の照会はシンさんの元に届き、とんでもない代物である事が判明した。
それは、人の触れてはならない「呪いの器」だったのだ。
シンさんは、壷が朝鮮の呪物であったことから、詳細を知るために、ある人物に壷について問い合わせた。
その結果、鉄壷が、シンさんやキムさんの当初の予想をはるかに越える危険な物であることが明らかになった。
この鉄壷の用途は、「蟲毒」などという生易しいものでは無かったのだ。

鉄壷が安置されていたのは「***神社」という、人に忘れ去られた、無名の小さな神社だった。
忘れ去られたと言うのは正確ではない。
触れ得ざる物を人界から隔離する為に、人目から隠して建立された神社だったのだ。
其処までして封じようとした鉄壷の正体は何だったのか?


鉄壷の正体は「炉」だった。
蓋を開け、中に「あるもの」を封じてから蓋を閉じ、燃え盛る炎の中に入れるのだという。
その為に壷は鉄で作られ、底に足が付けられていたのだ。
鉄壷の中に入れられた「あるもの」とは何か?
それは人間の「胎児」だった!
妊婦を凌遅刑に掛け、その子宮から取り出した胎児を鉄壷に入れて焼いたと言うのだ。
その数、実に12人!
年に一人、12年の時を掛けた大掛かりな呪法だった。
鉄壷の丸い形は女の子宮を表していたのだ!
11人の女は、さらわれたり、売られたりして来た哀れな女達だった。
呪術師に慰み者にされ、子を孕んで時が満ちると切り刻まれ、我が子を「鉄壷」で焼かれたのだ。
その、恨み、怨念は如何ばかりのものだっただろうか?


57 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:13:04 ID:???0
だが、12人目の最後の儀式は更に恐ろしくおぞましかった。
12人目の女は、12年間呪術を行ってきた呪術師の実の娘だった。
犯された娘の妊娠が判ると、呪術師は彼の息子によって凌遅刑に掛けられた。
時間を掛けて切り刻まれた呪術師が息絶えると、父を殺した息子の呪術師は儀式を行った。
それは「反魂」の儀式。
殺された呪術師を娘の腹の中にいる胎児に「転生」させる儀式だった。
所定の時が満ちると、娘は11人の女達と同様に凌遅刑に掛けられ、呪術師の転生児である胎児は子宮ごと鉄壷に封じられた。
蓋は二度と開かないように封印され、更に10年近く呪術師の家に安置されたのだと言う。

醜悪で余りにおぞましい行いだが、「この手の」呪いは、やり口が醜悪で無残であるほど効力が高まるものらしい。
鉄壷が安置されていた間、呪術師の一族の人間や村人達は一人また一人と死んで行った。
村が殆ど死に絶えたとき、術を仕上げた呪術師は鉄壷を持ち出して日本に渡った。

日本に渡った呪術師には姉がいた。
妹と同様に父親に犯されたが妊娠せず、その後も生き残っていたのだ。
彼女は弟を追って日本に渡った。
彼女の弟である呪術師は、鉄壷を持ったまま身分を隠して日本各地の朝鮮部落を渡り歩いた。
本国から身一つで渡ってきた同胞を朝鮮部落の人々は匿い助けたが、呪術師の行く先々で多くの朝鮮人が死んだ。
弟を追い切れなかった姉は、ある朝鮮部落の顔役であった宗教家に呪いの事、弟の事を相談した。
自分の手に余ると考えた宗教家は、ある日本人祈祷師の元に彼女を連れて行った。
彼女は韓国で行われていた儀式やそれまでの事、一族の呪術や、鉄壷について知っていることの全てを祈祷師に話した。
彼女の話した言葉を日本語に翻訳したものの写し、それが木島が持ってきた古いノートだった。


59 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:15:08 ID:???0
鉄壷、それは「呪いの胎児」を育てる為の「子宮」だった。
そして、胎児を育てる「養分」となるのは「生贄の命」だった。
「生贄」とは?
それは、呪術師の同胞であるはずの朝鮮人だった。
儀式を完成して10年近くも壷が韓国に置かれ、壷を持った呪術師が日本国内の朝鮮部落を渡り歩いたのはなぜか?
それは、生贄の命を子宮たる鉄壷に吸い上げる為の、言わば「根」を張り巡らせる作業だったのだ!
・・・鉄壷の中の「呪いの胎児」が、標的を呪い殺せる強さへと育つまで、生贄の民であり、同胞である朝鮮人の命を吸い上げようと言うのだ。
その数は何万、何10万。
あるいは、更に多く・・・。
そこまでしなければ呪いを成就できない「標的」とは何だ?

木島は淡々とした口調で語った。
この呪いは特定の個人ではなく「皇室」を標的とし、124代に渡って継続してきた皇統を絶つことによって日本と言う国を滅ぼそうとしたものだと。
俺は木島に言った。
「蟲毒や生贄を使って、一族や血統を滅ぼす呪法があるのは知っている。
しかし、この呪法のやり口はいくらなんでも無茶苦茶だ。
大体、無差別・無制限に生贄を必要とするなんて、そこまでする必要があるのか?
仮に皇室が滅んだからと言って、それは日本滅亡とは直結はしないだろう?」
シンさんとキムさんが呆れ顔で俺の顔を見て、マサさんは深いため息を吐いた。
そして、キムさんは「お前、本当に何も解ってないんだな。まあ、日本人だから無理も無いのかもしれないな」
そう言うと、この呪法が皇室・皇統を絶とうとしたことの意味を語り始めた。


61 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:16:43 ID:???0
キムさんの話によると、この世界は、他文化・異民族、異教徒を飲み込んで支配しようとする「支配者」と、「被支配者」に分かれるのだという。
支配者とは、大まかに言ってユダヤ・キリスト教徒、被支配者は土着宗教やローカルな文化がこれに相当する。
アジア地域における支配者は中華文明であり、日本やインド、朝鮮などを除く多くのアジア諸国・地域の支配層はその多くが中華の流れを汲むということだ。

他者を支配しようとする宗教や文化、王朝は、長く続けば続く程に、その「影」の部分として呪術的側面が育って行くそうだ。
支配を続ける事は即ち「業」を積み重ねて行くことに他ならないからだ。
「支配」の本質とは「悪」なのだ。
それ故に、王朝や文明は蓄積された「悪業」が臨界点に達すると必然的に崩壊へと向かう。
被支配者や民間の呪術は、支配者や自らを併呑しようとする者に対する抵抗の手段だが、支配者や権力者側の呪術は破滅へと積み重なる「業」への抵抗なのだそうだ。
ある時は疫病を祓い、災害を祓う。反乱者や簒奪者に呪殺を仕掛ける事もある。
支配する事によって積み重なった「悪業」が招く「災厄」を祓うのが権力による呪術であり、それは徐々に大きくなり、顕在化してくる。
それ故に、本来「影」であるべき呪術が表面に出て来るようになった文明や国家は末期的で、滅びが近いと言うことだ。
王朝や宗派等は、代を重ねる毎に「悪業}だけではなく、逆に「霊力」や「呪力」も強めて行く。
だが皮肉な事に、積み重なって強まった「霊力」「呪力」は、臨界点に達した「悪業」と共に破滅への原動力となってしまうのだ。
霊力や呪力は浄化への力だからだ。


62 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:20:22 ID:???0
日本は明らかにユダヤ・キリスト教圏や中華文明といった「エスタブリッシュメント」には属さない存在である。
しかし、中華文明圏を脱してからというもの、中華文明による再併呑もユダヤ・キリスト教圏による併呑も完全支配も叶わなかった。
それには、様々な要因があった。
だが、呪術的側面から見ると、それは「皇室」という極めて特殊な存在によるものだという。
日本の皇室は通常、王朝の「影」である呪術的部分がその存在の根幹であって、その他の部分は「支配」や「権威」すら枝葉に過ぎないということだ。
日本皇室は唯一最古の帝室である前に、最古・最強の呪術の系譜なのだ。
エスタブリッシュメントに属さない存在でありながら、強い力を持つ日本皇室は、本来ユダヤ・キリスト教圏にとっても中華文明圏にとっても消し去りたい存在らしい。
しかし、最高の霊力・徳を持つ日本皇室と正面から対立する事を彼らは避けるようになった。
天安門事件に端を発する国家存亡の危機に瀕した「中華人民共和国」が、「七顧の礼」を以て天皇訪中を招請し、国難を凌いだのはその好例だそうだ。
殲滅ではなく共存を選んだのは、日本皇室及び日本人が、異民族を併呑して「帝国」を運営する力量を持たない民族であることが明らかになったからだ。
直接利害が衝突しない「触れ得ざるもの」に自ら敵対して、再び火傷する事を怖れたのだ。


63 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:21:13 ID:???0
「日本国」とは日本皇室の誕生から続く一つの王朝に過ぎない。
それ故に皇室の否定は日本と言う国の存在自体を否定する事に等しい。
本質的に、強大な「力」を持つ日本皇室や、中華文明に併呑されない「日本」を敵視する「中国」は、長期的視点で日本を内側から崩しに掛かっている。
所謂、売国メディアや自虐史観がそれだ。
自らの王室や、国家・民族に殉じた人々を誹謗する事は、国の「運気」を非常に損なう、天に唾する愚行なのだと言う。
「死人に鞭を打たない」という日本人の文化は弊害もあるが、国家の「運気」を保つ上で重要な意味を持つのだ。
現在行われている工作は、「皇室の呪力」と直接衝突せずに、日本国の「運気」や「霊力」を殺ぐ手段としては、呪術的にも理に適っているそうだ。

「呪力」「霊力」の最高位にある日本皇室に呪術を仕掛ける・・・それは、強力であればあるほど自殺行為に等しくなる。
少しでもまともな呪術的視点を持つ者なら絶対に避ける愚行である。
しかし、敢えてそれを行う者は後を絶たない。
一部日本人と朝鮮民族である。




朝鮮民族は自らを「小中華」と称し、甚だしくは中華文明の正当継承者であると自認している。
しかし、その実態は、大陸の袋小路である朝鮮半島に封じ込められた「生贄」の民族である。
彼らの特性は、如何なる外敵の支配にも抵抗しないが、併呑・同化はされないという点にある。
宿主たる征服者の体内に潜み、その内部を食い荒らし、滅びを加速させる。
そして、次の宿主たる支配者・征服者に取り入り、再び食い荒らすのだ。
支配者に同化されない為、彼らが独特の民族心理として培ってきたものが「恨」である。
支配者に対する潜在的敵意である「恨」という民族意識によって、彼らは確固たる独自文化、独自宗教を持たずして民族としての生存を図ってきたのだった。


65 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:22:54 ID:???0
自らをエスタブリッシュメントである「中華文明の担い手」とする民族的錯誤、更に「生贄」であることに気付かずに反日感情を煽られて自殺的行為に走る朝鮮人呪術師は多い。
しかし、根本的理由は朝鮮民族の潜在的な生存本能に負うところが大きいらしい。
強力な民族や国家に囲まれた弱小の朝鮮民族が、民族として生き残ってこれたのは、「恨」の精神によって頑なに異民族との同化を拒んできたからだった。
しかし、最も関係の深い隣国である日本は、外来の技術・技芸、文化・宗教、そして人間までもその内部に取り込み、強力に同化してしまう恐るべき特性を持っていた。
日本に渡った同胞は短期間で日本と言うブラックホールに飲み込まれ、日本人と化してしまった。
古来、日本に渡った者は「エリート」が多かった。
だが、そういった者ほど日本への同化、日本人化は早かった。
故郷を離れ、異国で世代を重ねながらも「朝鮮民族」である事にこだわりを見せるのは、むしろ低い身分の出身者が多いようだ。
日本人の目からは誇張に見える事も少なくないが、日韓併合は朝鮮民族にとって民族存亡の危機だったのだ。
シンさんは言った。
例え、世代が5世・6世と進み、制度的に不利な身分に置かれようとも、朝鮮民族の日本への帰化は一定以上には増えないだろうと。
朝鮮民族には他民族に併呑され同化されることへの本能的な恐怖がある。
そして、同化力の強い日本と言う国家・社会において朝鮮民族としてのアイデンティティの拠り所となるものは「国籍」位しかないのだと・・・


この特異な性質を持った日本と言う国を滅ぼす事、日本と言う国家の起源とも言える皇室を打倒することは、朝鮮民族の民族的命題とも言えるのだ。
もっとも、最近は日本皇室の「権威」を自らに引き寄せようとする動きもあるようだが・・・

ともかく、狂気とも言える「鉄壷の呪法」を行った呪術師は、自らの命を掛けるほどに強烈な覚悟を持って皇室・・・日本と言う国を呪った。
しかし、呪いの対象は、ある意味無限に近い、全世界を敵に回してもなお平然と存続してしまうほどの霊力を持った存在だった。
鉄壷は際限なく「生贄」の命を吸い取る、少なくとも日本国内にいる朝鮮民族にとって非常に危険な呪物となった。
いや、呪術師がこのような陰湿でおぞましい呪法を組み立てたのは、むしろ、それが目的だったのかもしれない。
日本への同化を嬉々として受け容れようとした、反民族的な「親日朝鮮人」を根絶やしにする為の呪法と考えた方が筋が通る。
実際、鉄壷を持ち込んだ呪術師の行く先々で多くの人々が命を落とし、謎の病に倒れた。
どのような経緯で確保されたかは謎だが、鉄壷は回収され、多くの朝鮮民族の命を守る為に日本人の手によって「***神社」に安置される事になった。
封印は功を奏し、半世紀以上の時間が経過した。
当時の関係者はいなくなり、呪いの鉄壷の存在を知る者は居ないはずだった・・・
しかし、***神社は暴かれ、鉄壷は持ち出された。
俺達は、再封印できるか***神社の確認と、柳の元にあるであろう鉄壷を確認しなければならなかった。
俺は木島と共に***神社へと向かった。


67 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:25:36 ID:???0
***神社は雪深い山奥にあった。
車で行けるところまで行き、後は地図とGPSを頼りに徒歩で進んだ。
6時間以上掛かっただろうか?
俺達は岩だらけの川原に出た。
川に沿って上流に向かうと対岸に黒い鳥居が見えた。
川幅は15m程だが、流れはかなり速い。
だが、窃盗団は川を渡っているはずだ。
上流に向かって10分ほど進むと、岩伝いに歩いて渡れそうな場所があった。
俺達は対岸に渡り、鳥居の前まで戻った。

鳥居は高さ2m程の小さな物だった。
鳥居には太い鎖で出来た輪が内側いっぱいに広げて吊るされていた。
鳥居から奥に10mほど進むと焼け落ちた祠があった。
火を放たれてそれ程時間は経っていないのだろう。
焼け跡の生々しさがまだった。
祠の裏は奥行き5m程の人工のものらしい岩の洞穴があり、最奥部には鉄壷が収められていたのだろうか、直径40cm、深さ60cm程の縦穴が掘られていた。
洞穴の中にも火が放たれたのだろう、黒い煤や油の臭いが微かに感じられた。
俺は木島に「どうですか?使えそうですか?」と声を掛けた。
暫く木島は目を瞑ったまま黙っていたが、やがて口を開いた。
「ダメだな、道が付いてしまっている。ここはもう使えない。他の手を考えないとな・・・」


69 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:27:13 ID:???0
日本各地には俗に「パワースポット」と呼ばれる地脈の集結点や、大地の「気」の湧出点がある。
それとは逆に、地脈から切り離され、大地からの「気」が極端に希薄なポイントもある。
仮に「ゼロスポット」と呼ぼう。
このゼロスポットは呪物や不浄な存在を地脈・気脈から断ち切って封印するのに適した場所なのだと言う。
ゼロスポットはパワースポットよりも数が少なく貴重なものらしい。
発見されたゼロスポットは祈祷師や神社などが把握し、監視しているということだ。
この神社も、ある祈祷師のグループが見つけて管理していたポイントの提供を受けて建立されたものだと言う。
朝鮮人の「命」を生贄として吸い取る鉄壷は日本人の神官によって封じられた。
今回、木島が呼び寄せられ、マサさんやキムさんではなく、俺が***神社に赴いたのも「道」が付くのを怖れたからだ。
生贄である朝鮮人が足を踏み入れれば、壷に「命」を吸い取られ、吸い取られる筋道が外界への「道」となる。
窃盗団の韓国人が足を踏み入れた事で、このスポットは聖域ではなくなってしまったのだ。

日が落ち始めていたので、俺達は***神社の洞穴で夜を明かすことにした。
洞穴の奥で寝袋に潜り込んでいると、やがて睡魔が襲ってきた。
浅い眠りに入りかけたところで不意に意識がハッキリした。
だが、体は動かない。
いわゆる金縛りだ。
やがて、ヒソヒソ話す複数の声、赤ん坊の泣き声、女の悲鳴が絶え間なく聞こえてきた。
俺はもう、金縛りや「声」くらいでオタ付くほどウブではなかったが、場所が場所だけに気持ちの良いものではなかった。
俺は徐々に金縛りを解き、立ち上がった。
俗にいう「幽体離脱」と呼ばれる状態だ。
「幽体離脱」は、コントロールされた夢の一形態だ。
俺は洞穴の外を見た。


71 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:28:43 ID:???0
洞穴の外にはX字に組まれた木に手足を縛られた血まみれの女が磔にされていた。
手に刃物を持った血まみれの男が、女の耳や鼻、乳房を刃物でそぎ落として行く。
女が表皮の全てを削ぎ落とされて、人の形をした赤い塊になると、男は女の膨らんだ腹に刃物を突き立てた。
凄まじい女の悲鳴。
目蓋の無い女の目が俺を睨み付ける。
男が女の腹から何かを掴み出し、こちらを振り返った。
男が掴んでいたものは臍の緒の繋がったままの胎児だった。
抉り取られて眼球の無い男の顔が俺の方を向くと、男と女、そして胎児が口々に呪文のように「滅ぶべし」と唱え続けた・・・
余りに酸鼻な光景に俺は凍りつき、やがて意識が遠のいた。

俺は木島の「おい」と言う声で目を覚ました。
洞穴の中の気温はかなり低かったが、俺はびっしょりと嫌な汗をかいていた。
ランタンの黄色い光に照らされた木島の顔にも脂汗が浮いていた。
どうやら木島も同じものを見ていたらしい。
俺が木島に「あれは・・・」と問うと、木島は「夢だ・・・だが、現実でもある・・・」と答えた。
夜明けまでは、まだ時間があったが、俺達は眠らずに太陽が顔を出すのを待った。

山を下りた俺と木島はマサさんと合流した。


73 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:29:57 ID:???0
マサさんと合流すると、俺達は鉄壷を買い取った盗品ブローカー、柳の元へと向かった。
俺達は柳の指定したスナックを訪れた。
店は古く、掛かっている曲も昭和の古い演歌ばかりだった。
事前情報によると、柳は50代前半の年齢のはずだった。
しかし、目の前にいる男の顔は明らかに老人のそれだった。
時折激しく咳き込みながらジンロを呷る柳の顔には、誰が見てもハッキリと判る「死相」が浮いていた・・・
マサさんが柳に「鉄壷は何処にある?」と聞くと、柳は「西川と言う男が持って行った」と答えた。
俺は「西川?在日か?」と尋ねた。
すると柳は「いや、アンタと同じ日本人だ。ただね、バックがやばい。ヤツは@@@会の幹部だ」
柳が口にしたのは韓国発祥の巨大教団の名前だった。
確かにヤバイ。
その教団は政界や財界、裏社会とも関係が深い危険な団体だった。
日本を「サタンの国」、天皇や皇室を「サタンの化身」とし、日本民族を朝鮮民族の奴隷とすることを教義とするカルト教団だ。
外法を以て皇室に呪いを掛けたとしても全く不思議ではない狂信者の群れ・・・それが、その教団だった。

柳は「俺も色々と訳ありのブツを捌いて来たが、あの壷は極め付きだ。引き取ってくれるなら金を払っても良いくらいだ・・・」
更に、ククッと笑うと、「いきなり大人数で押しかけて、持って行かれちゃったんで、代金を貰ってないんだ」
顔に傷や痣は無かったが、Yシャツのはだけた柳の胸には内出血の痕があった。
いつまでも鉄壷を渡さない柳に業を煮やした西川達は、柳を痛めつけて鉄壷を奪って行ったのだろう。
「あんなものはいらないけれど、只で持って行かれるのは面白くない。欲しかったらアンタ達にやるから取り返してくれ」
マサさんが「判った。そうさせてもらうよ」と言うと、俺達は席を立ち店を後にした。

帰りの車中、後部座席で木島がマサさんに「どうする?」と声を掛けた。
マサさんは「俺は荒っぽいのはキライなんだ。監視をつけて1週間ほど泳がそう。
そうすれば、向こうから壷を渡したくなっているだろう」


75 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:31:39 ID:???0
キムさんの手配で、権さん達が西川家やその取り巻きを監視している間に、西川とその周辺の者達に次々と「不幸」が訪れた。
普通ではありえない短期間に、事故や急病による死が相次いだ。
西川自身も飲酒運転の車に突っ込まれて重傷を負っていた。
「頃合だ」と言って木島は西川の元を訪れ、問題の鉄壷を手にして戻って来た。
木島が戻ってくると、マサさんは俺に紙包みを渡して「柳の所に届けてくれ」と言った。
持った感じ、100万と言ったところか?
俺は、前のスナックを訪れ柳の居所を聞いた。
柳は既に死んでいた。
俺たちが去った後、連日、目が覚めると酔い潰れるまで飲み続け、再び目が覚めると飲み続けると言う生活を続けていたらしい。
柳には家族はいなかったが、別れた女がいた。
俺は女の下に金を届けた。
女は「そう、あの人が死んだの」と、感情の無い声で金を受け取った・・・


戻った俺はマサさんに「壷はどう処理します?***神社はもう使えませんよ?」と尋ねた。
すると木島が「お前、今夜、壷と一緒に夜を明かせ。心を空っぽにして壷を『観続ける』んだ。
お前の思い付いた方法で処理しよう」と言った。
俺は「待ってくれ、西川達は日本人だけど、死人が出ていたぞ?大丈夫なのか?」
鉄壷の周辺で相次ぐ人の死に、俺はかなりビビッていた。
***神社から盗み出されて以来、この鉄壷の周辺で死んだ者は、神社から盗み出した窃盗団が5名。
鉄壷を持ち出した朴と、買い取った柳。
西川と共に自動車事故に遭って死亡した西川の妻。
心筋梗塞で死亡した西川の父親、冬の寒空の下で大量に飲酒して凍死した西川の部下など10名に達していた。
しかも、西川の周辺の死者は皆、日本人だったのだ。
神社の洞穴で見た生々しい「夢」の事もあって、俺はこの鉄壷については、かなりナーバスになっていた。


77 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:33:09 ID:???0
マサさんは「大丈夫だ。お前は日本の神々の加護を受けている真っ当な日本人だ。
壷の中身も、お前に危害を加える事は出来ない。
よしんば出来たとしても、今のお前なら自分の身を守るくらいの力は十分にある。
西川達は日本と言う国や日本民族を害そうとする『邪教』に魂を売り渡して、霊的に日本人ではなくなっていたのさ。
加護を失っただけではなく、裏切りによって日本の神々を敵に回していたんだ。
あの教団の教義を見ろ。あんなものに帰依する輩をお前は同じ日本人と認められるか?
まあ、あの鉄壷を放置したら、今の日本じゃ命を落とす日本人も少なくはなさそうだけどな。
大丈夫だからやってみろ」

俺はマサさんや木島の言葉に従って鉄壷と夜明かしする事になった。

急遽、マサさんがレクチャーしてくれた瞑想法に従って、俺は心を空っぽにして壷を「観」続けた。
やがて、洞穴の中で見た地獄のようなイメージが脳裏に浮かんできた。
真っ赤な灼熱の荒野で磔にされた血塗れの女達とその足元に転がされた赤ん坊。
まず、俺は明るい日差しの真っ白な雪原をイメージした。
次に、雪解け後の春の草原のイメージ。
瞑想によって「スクリーン」に浮かぶ景色は、俺のイメージに従って変化した。
俺は、きれいな女の裸体をイメージしながら女の縄を切り、足元の赤ん坊を女に抱かせた。
すると血塗れの母子は美しい姿に戻った。俺はイメージの中で同じ作業を繰り返し続けた


79 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:34:29 ID:???0
気が付くと、俺と11組の母子の前に、洞穴で観た眼球の無い血塗れの男が立っていた。
血塗れの女が男を見つめる。
我が子の胎児に転生し、自ら封じられたと言う呪術師だったのだろうか?
俺は女達の怯えを感じた。
俺は男に「見ろ、ここはもう地獄じゃないぞ」と語りかけた。
すると、男の顔には目が戻ったが、「・・・滅ぶべし」「・・・を呪う」という男の声が聞こえてきた。
俺は「アンタは日本人に転生しても、日本を呪うのかい?」と問いかけた。
男の意思の揺らぎを俺は感じた。
俺は、先ほどまでの赤い灼熱の地獄を思い浮かべて、「皆、あそこに戻る気は無いってさ。アンタ、あそこに一人で留まるかい?」と問いかけた。
俺の脳裏に「いやだ!」と言う、強い言葉が響いた。
男の姿は消え、目の前に血塗れの女と赤ん坊がいた。
俺は先ほどまで繰り返した「治療」のイメージ操作を行って、男だった赤ん坊を女に抱かせた。
すると、女達は一人また一人と消えて行き、最後の母子が消えて行った。
その瞬間に俺は俺は脳裏で問いを発した。「お前達、何処へ行きたい?」


やがて、景色のイメージが消えて脳裏の「スクリーン」は暗くなり、俺は瞑想から醒めた。
最後に問いを発したときに浮かんだイメージ。
それは陸の見えない、果てしない「海」のイメージだった。

俺はその事をマサさんたちに伝えた。
マサさんは「そうか、判った」と答えた。

俺がマサさんのレクチャーに従ってイメージを操作した瞑想法は、供養法の一種なのだそうだ。
俺には呪術や祈祷の儀式についての知識が無く、「調伏」のイメージが無かった事が成功の鍵だったようだ。
また、長い間神社に封じられて浄化が進んでいた、鉄壷の呪力がまだ余り戻っていなかったことも幸いしたようだ。


81 :呪いの器 ◆cmuuOjbHnQ:2008/07/23(水) 04:36:13 ID:???0
春分を待って、鉄壷の本格的な供養が行われた。
花や酒、果物や菓子を供えた祭壇に僧侶の読経の声が響き渡る。
俺は手を合わせて、瞑想で観た壷の中の人々に、「どうか成仏して、あの世で幸せに暮らして下さい」と祈った。
日を改めて俺達はキムさんのチャーターした漁船に乗って海上に出た。
やがて、船は停船した。
空はよく晴れ、波も穏やかだった。
マサさんが「これで終わりだ。最後はお前の仕事だ」と言って鉄壷を俺に渡した。
ズシッと来る鉄壷を俺は両手で持ち、できるだけ遠くへと海に放り投げた。
大して飛ばなかった鉄壷は、あっという間に海の底へと沈んで行った。
鉄壷を沈めた海に俺達は花束を投げ、酒を注いだ。
手を合わせ、しばし黙祷をすると、再び船のエンジンが始動した。

俺たちを乗せた船は、港へ戻る航路を疾走し始めた。


おわり

114 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 05:59:23 ID:???0
そこはキムさんの持ちビルの一室だった。
照明は落とされ、明かりは蝋燭の炎だけだった。
ガラス製のテーブルの上には注射器とアンプル、アルミホイルを巻かれたスプーンが置かれていた。
キムさんが「大丈夫か?注射にするか?それとも、もう一度鼻から行くか?」と声を掛けてきた。
俺は、朦朧とする意識で「注射で」と答えた。
塩酸ケタラール・・・2005年12月に麻薬指定が決定され、2007年1月1日より施行されたが、この時点では合法な麻酔薬の一つに過ぎなかった。
時間感覚が消失していたが、その30分ほど前、俺はアンプルの液体を蝋燭の炎で炙って得られた薄黄色の針状結晶を鼻から吸引していた。
テーブルの上でテレカで砕いた結晶を半分に切ったストローを介して一気に吸い込むと鼻の奥に強烈な刺激が走り、やがて俺の意識はブラックアウトした。
朦朧としながらも意識を取り戻した俺に、キムさんはアンプルから吸い上げた薬液を注射した。
シリンダーが押し込まれると、ゴォーッという大音響と共に俺は深くて暗い穴の奥に吸い込まれて行った・・・

俺がケタミンという、マイナーなサイケデリック系のドラッグを試したのは「仕事上」の必要から、擬似的な臨死体験とも形容される幻覚体験を得るためだった。
薬物による幻覚体験の中で意識を鮮明に保つ必要があったのだ。
事の発端は、キムさんが知り合いの女霊能者から請けた仕事だった。


115 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:00:11 ID:???0
俺はキムさんに伴われて、ある女霊能者の元を訪れた。
日を改めて書きたいと思うが、キムさんと女霊能者との間には只ならぬ関係がある様子だった。
女霊能者は俺たちを奥の部屋に通した。
部屋には「治療中」だという一人の男がいた。
男は、狂気を湛えた獣のような眼光を俺たちに向けていたが、骨と皮ばかりに痩せ衰え、カサ付いた皮膚からは精気と言うものが一切感じられなかった。
何か質の悪い「憑物」に取り付かれているのは明らかだったが、憑物の正体に付いては俺には伺い知れなかった。
それよりも気になったのは、枯れ果ててしまったかのような男の精気のなさだった。
この男の精気のなさに俺は思い当たる事があった。
これは、「房中術」によって精気を抜き取られた成れの果てなのではないか?
「房中術」について、俺には苦い記憶があった。
初めてマサさんの下で修行した折に、娑婆に戻ったばかりの俺は、聞き覚えた「房中術」を知り合いの風俗嬢で試した事があるのだ。
マサさんの警告を無視して1週間ほど彼女と交わり続けた俺は、荒淫の果てに彼女を「壊して」しまった。
「房中術」により許容限度を越えて「精気」を奪われた人間は、肉体に回復不能の重大なダメージを負ってしまうのだ。
この、松原と言う美大生は20歳を少し過ぎたばかりの年齢だったが、痩せ衰えたその姿からはとても信じられるものではなかった。
「憑物」の方は何とかなったとしても、精気を奪い尽くされた身体の方は元通りに回復する事は絶望的に見えた・・・


116 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:00:55 ID:???0
応接室に通された俺たちの前に、女霊能者が一人の女を連れてきた。
山佳 京子・・・崔 京子(チェ キョンジャ)は、松原とは美大の同級生と言うことだった。
松原とは少し異なる類のものだったが、京子にも相当質の悪い「憑物」が憑いている事が俺にも判った。
京子や松原に纏わりついている独特の「悪い空気」は、霊感の類などなくても殆どの人が「感じる」ことが出来たであろう。

松原は女霊能者の師匠である、先代の頃からの信者の子息だった。
幼少の頃から感受性や霊感が強く、先代の霊能者には「これだけ霊感が強いと普通の生活は難しいだろうから、修行の道に入った方が良い」と言われていたそうだ。
だが彼は、人並み外れた霊感や感受性という才能を霊能ではなく、絵画と言う芸術の道に生かす人生を選んだ。
強い霊能を持つ松原は、同級生の山佳 京子に纏わり憑く、非常に強力で悪性の「憑物」に気付いた。
この時点で、松原は女霊能者の元を訪れて相談するべきだった。
松原の家族が息子の異変に気付いた時には既に手遅れの状態であり、松原は回復不能な廃人状態に陥ってしまっていた。
そして、京子の話によれば、松原をこのような哀れで無残な状態にしてしまったのは、他ならぬ京子の母親と言う事だった。


117 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:01:43 ID:???0
京子の母親、山佳 京香こと朴 京玉(パク キョンオク)は、スタジオ数3軒程のヨガ・スクールの経営者だった。
キムさんの調査によると、朴 京玉は変わった経歴の持ち主だった。
とにかく、異常な数の宗教団体を渡り歩いていた。
名の知れた教団に所属していた事もあったが、その殆どが地方の小規模な教団だった。
神道系、仏教系、キリスト教系・・・教団の教義等には共通性はなかったが、何れも「生き神的」教祖が一代で築いた新興宗教が殆どだった。
山佳 京香が入信した多くの宗教団体は教祖や教団幹部の「女性問題」が元で解散や分裂の末路を辿っていた。
夫であり京子の父親である山佳 秀一こと崔 秀一(チェ スイル)は、京玉の宗教遍歴で入信した教団の一信者だった。
老齢の資産家だった崔 秀一と娘・京子との間には、京子の東アジア人離れした容姿が示すように血の繋がりはないようだ。
朴 京玉と結婚し、京子が生まれた直後に崔 秀一は病死している。
朴 京玉の宗教遍歴の中には「A神仙の会」という後に宗教団体に改変されたヨガ道場もあった。
宗教団体化したA神仙の会が後に未曾有の事件を起こした頃まで朴 京玉の宗教遍歴は続いた。
宗教遍歴を止めた山佳 京香は夫の遺産を使ってヨガ・スクールを開講した。
事件後の「ヨガ不況」の中、スクールは順調に展開し、数年の間に常設のスタジオ3軒を構えるまでに成長していた。


118 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:02:38 ID:???0
キムさんは更に朴 京玉の過去を洗った。
朴 京玉は日本人の母と在日朝鮮人の父との間に生まれた元・在日朝鮮人2世だった。
父母共に、家系的には宗教や呪術とは関わりのない、ごく普通の家庭だった。
京玉が小学6年生のとき、交通事故で母が死亡した。
長距離トラックの運転手として生計を営んでいた父親は、京玉を自分の両親に預けた。
京玉を預かる条件として、祖父母は彼女を地元の民族学校に通わせた。
しかし、帰化家庭に育ち、木下 京香という日本名のみを名乗り、朝鮮語も学んだ事のなかった京玉は学校に馴染む事が出来なかった。
中学1年の夏休み前に京玉は不登校となり、自室に引き篭もるようになった。
元々占いや呪い、心霊写真や怪談の好きな少女だった京玉は、引き篭もった自室でオカルト雑誌や超能力関係の書籍を読み耽るようになって行った。
やがて、オカルト雑誌の読者欄を通じて同好の士と文通するようにもなった。
部屋に引き篭もり切りとなった孫娘を祖父母は心配し、その原因を作ったことに強く責任を感じていたようだ。
そんな京玉が、祖父母に初めて頼み事をした。
ヨガを習わせて欲しいと言うのだ。
ヨガがどういったものなのか祖父母には良く判らなかったが、部屋から出て身体を動かして、孫が少しでも健康になってくれればと、京玉の願いを聞き入れた。


119 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:03:28 ID:???0
京玉はヨガにのめり込んだ。
祖父母は、電車で片道1時間のスタジオ通いがそう長く続くとは思ってはいなかったらしい。
しかし、安くはないレッスン料を払い続ける祖父母を十分に満足させる真剣さで京玉はレッスンを重ねた。
真剣な受講姿勢や京玉自身の才能もあったのだろう、2年目からは特待生としてレッスン料は免除された。
3年目からは「内弟子」として寮に入ることになったが、最早、父や祖父母も京玉を止める気はなかった。
京玉の通ったヨガスタジオの主催者は旭 桐子という女性だった。
入会から5年後、スタジオが閉鎖される頃には京玉は旭のアシスタント的な存在になっていた。
旭 桐子は年に数度インドに渡航して修行を重ねるといった本格派だったが、ヨガ業界では無名の存在だった。
むしろ、そういった方面とは一線を画していたようだ。
だが、彼女の名は一部の宗教関係者、特に「法力」や「超能力」を売り物にする怪しい連中の間では知られていたようだ。
朴 京玉も旭 桐子に伴われて何度もインドに渡航していた。
スタジオ閉鎖後の旭 桐子の消息は不明であるが、朴 京玉はヨガを続け、日本で滞在費を稼いではインドに修行の為に渡航すると言う生活を続けていたようだ。
そして、長期間・・・2年ほどのインド滞在の後に、朴 京玉の宗教遍歴が始まった。


120 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:04:13 ID:???0
柔軟体操の一種のように見られがちなヨガであるが、その本質は「悟り」の獲得を目的とした霊的進化の技法らしい。
アーサナと呼ばれる数々の複雑なポーズは、長時間の座禅瞑想を行っても新陳代謝や血流の阻害を起こさない柔軟で強靭な肉体を養成するためのものらしい。
また、少し前に「火の呼吸」で有名になったヨガの呼吸法は全身を走る「気道」を浄化すると共に、悟りに必要な生命エネルギーを養う物だと言う事だ。
瞑想法も複雑多岐に渉り、呼吸法と気や生命エネルギーの操作、瞑想によるイメージ操作を組み合わせて行うそうだ。
このような「行」を重ねることによって得られる「現」や「果」をシッディ、日本語では「悉地」と言うらしい。
この「悉地」を獲得し、保持した状態を「通」と呼ぶ。
「悉地」に「通じる」事によって発現する力をアビンニャー、日本語では「神通力」と呼ぶらしい。
「神通力」には主要なものとして神足通・天眼通・天耳通・他心通・宿命通・漏尽通の6種があり、この6種を六神通と呼ぶそうだ。
ヨーガ瞑想が深まると生命活動が極端に低下する。
アーサナで強靭な肉体を養い、プラーナヤーマと呼ばれる呼吸法で気道を阻害する「業(カルマ)」を浄化し、生命エネルギーを蓄えて掛からないと容易に命を落とすそうだ。
生命活動が低下し、仮死状態に至る程に深い瞑想の究極状態をサマディ、日本語で「三昧」と呼ぶらしい。
この「三昧」に至る過程で人は生理的な反応として様々な神秘体験をするらしい。
「三昧」が人為的に仮死状態に至るものだとすれば、人為的な臨死体験とでも呼ぶべきものなのだろうか?
「三昧」に没入した状態とは、「異世界」に魂や精神が踏み込んだ状態なのだそうだ。
この三昧によって踏み込んだ「異世界」で活動する為に必要な力が「六神通」だと言う事だ。
聞きかじりの話から俺が得た理解はかなり不正確なのだろうが、取り敢えずはこう言った所らしい。


121 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:04:53 ID:???0
ヨーガには様々な手法や技法が存在するらしいが、その目的は「三昧」に至り、その中で「悟り」を得ることのようだ。
それ故に、ヨーガの行者は、気道を阻害する「業」を避け、生命エネルギーを損なわないように、持戒して禁欲的な生活を送る。
だが、裏道を行く「外道者」はどんな世界にも現われる。
数あるヨーガの教派?の中には神通力や三昧へ至る過程で得られる神秘体験を修行目的とする教派が少なからず存在すると言う事だ。
性交によって異性から生命エネルギーを奪い取る「房中術」。
自己の「業(カルマ)」を他人の体内に転移させる事で自己の気道浄化を図る「シャクティーパット」。
視覚的な神秘体験を得るためにダチュラやバッカク、その他様々な植物アルカロイド、生物毒や金属を調合した幻覚剤、「秘薬」。
「悟り」と言う目的から逸脱した、本来、長く困難な修行と持戒の上に得られる「副産物」を手早く獲得しようとした様々な手法が開発された。
ただ、こういった外法は厳しく排斥されるものらしく、特に「秘薬」のレシピは秘伝とされ、偽物を掴まされて命を落とす者が少なくないようだ。
修行用の伝統的な「秘薬」の代用として、様々な「現代薬」が用いられた。
こういった薬物の中ではLSDとケタミンは双璧であり、特に規制の甘いケタミンは、インドからヨーガ愛好家の多い欧州に大量に持ち出されているそうだ。
旭 桐子の修めた、そして、朴 京玉が彼女から学んだヨーガはこういった「外法」を行う一派だったようだ。


122 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:05:37 ID:???0
山佳 京香ヨガスクールはダイエットなどで評判が高いらしく繁盛していた。
だが、山佳 京香には良からぬ噂もあった。
男性会員との不倫や、未成年者との援助交際の噂が流されていた。
もっとも、スクールの会員や周囲の者に言わせれば「同業者の嫌がらせのデマ」と言う事らしかったが・・・
キムさんに示されたヨガスクールのパンフレットと山佳 京香の写真は実年齢と比べてかなり若そうに見えた。
見た目で30代半ばから40歳前くらい。パンフレット上では年齢は40歳代と言う事になっていた。
何れにしても、50代後半と言う山佳 京香の実年齢からはかなり懸け離れていた。
いくら鍛え続けてきたと言っても、ありえない若さと美貌だった。
俺はキムさんに「何年前の写真ですか?」と聞いた。
だが、キムさんは首を横に振って「2ヶ月ほど前のものだ」と答えた。
キムさんの調査では、山佳 京香の不倫や援助交際は実際に行われていると言う事だった。
そして、山佳 京香と一夜を共にしたとされる男達は皆一様に体調を崩し、様々な不幸に襲われていた。
関係者を襲う不幸は本人だけではなく、その家族にも及んでいた。
霊能者の女には大凡の見当はついているようだった。
俺は偽名を使って、山佳 京香ヨガスクールに入校した。


123 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:06:23 ID:???0
やってみて初めて知ったのだが、ヨガと言うものはかなりハードなエクササイズだった。
俺はマサさんの指導による修行法の他に、キムさんのボディガードの連中の空手道場にも顔を出していたが、キツさの質が異なり、かなり堪えた。
入校前、料金の割りに短いと思った週1回60分という初心者クラスの時間も、運動経験のない初心者には十分すぎる長さだっただろう。
基本レクチャーの初心者クラス5回を終えた俺は、一般コースへ上がった。
慣れさえすれば体力的に問題はなかった。
一番の難関らしい呼吸法に付いても、細かいポイントは違っても同様のものをマサさんの下で「命がけ」で学んだ俺には問題なく進める事が出来た。
週2回のレッスンが通常の所、ほぼ毎日通ったせいもあるだろうが、俺は早くても1年半、人によっては3年かかると言う上級コースに3ヶ月で到達した。
上級コースに上がって暫くすると俺はインストラクターによる個人教授を勧められた。
この個人教授でどうやら「選別」を行っているのだろう。
俺は、学院長による特別コースの受講を勧められた。
インストラクター達はすばらしい事だと褒め上げ、上級コースの面々は羨望の眼差しを俺に向けた。
特別コース・・・詳しい内容は判らないが、ヨガの奥儀によって「神秘体験」をした会員が多くいるということだった。
特別コースはワンレッスン2名限定で、宿泊費別で一回3万円の連続12回の講座だった。
一般コースから上級コースまでは1レッスン90分で3.000円ほどだが、特別コースを受ける前提要件のインストラクターの指名による個人授業といい、2名限定の特別コースといい、
人の虚栄心や競争心を突いた実に上手い商売だと俺は感心した。


124 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:07:10 ID:???0
誓約書にサインをすると、泊り込みで12回の特別コースのレッスンが始まった。
レッスンを担当した山佳 京香は写真で見たよりも更に若々しく、妙にそそられる美女だった。
俺とペアで受講した女は、中級クラスでアシスタントをしていたインストラクター候補の特別会員の女だった。
気力や霊力もかなり高そうな様子だった。
どうやら、特別コース受講の可否は、受講生の「金回り」だけが基準ではないようだ。
コースの内容は新しい呼吸法と瞑想が中心だった。
呼吸法のあと、瞑想に入る前に俺達は妙な飲み物を飲まされた。
甘い花の香りとミントの清涼感のあるこの飲み物を飲むと汗が一気に引き、頭がスカッとした。
コースの回数が進むに連れて、丹田や会陰、尾底に「気」の熱が溜まって行くのが判った。
この「熱」を表現するとすれば、正に「性欲」の塊と言ったものだった。
5回目のレッスンに入る頃には、呼吸法に入って暫くの段階で俺は激しく勃起していた。
一緒にレッスンしていた女はレオタードの股間に汗とは明らかに違う液体で大きな染みを作っていた。
さほど広くはない部屋の中に女の発する雌の臭いが充満した。
タマラナイ・・・
間違いなく、これは呼吸法と瞑想によって掘り起こされた情欲だった。


125 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:07:54 ID:???0
困った事に、この掘り起こされた情欲は一発「抜いて」も収まる事はなかった。
別室で寝ているペアの女もタマラナイ状態になっていた事だろう。
俺は尾底や会陰部に溜まった気を少しづつ抜き出して全身に循環させ、丹田に落として圧縮する作業を繰り返した。
丹田に気を集める事で俺は冷静さを取り戻していた。
それでも、高まった気によって全身は火照りっぱなしだった。
翌日のレッスンでは、レッスンが始まる前から女の顔は上気して足元も定まらない様子だった。
呼吸法が終わった時点で京香の指示で俺達は全裸となってそのまま瞑想を行った。
次の日からは最初から全裸でレッスンは行われた。
レッスン終了後、気を抜き出して丹田に集める作業を行っていた俺は紙一重で理性を保っていたが、女の方は理性の限界だったのだろう。
瞑想が終わった段階で遂に女が俺にしな垂れかかってきた。
俺もそのまま女を押し倒して激しく交わった。
女は正に狂った獣のようだった。俺も獣になっていたが、頭の一点だけは冷静だった。
激しく交わる女と俺の狂態を山佳 京香は、さも当然と言うように冷めた目で見つめていた。
女は何度も達し、俺も幾度となく放ったが、気の昂りは一向に衰えなかった。


126 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:08:34 ID:???0
最終日、女は最早、呼吸法も瞑想もままならない状態だったようだ。
瞑想の途中で覆い被さってきた女に俺は応じた。
女と交わっていると、突然、今までに感じたこともないような快感に襲われた。
快楽から引き離してあった俺の理性が、女に房中術の「導引」を仕掛けられたことに気づいた。
俺は快楽に逆らって女の体から自分の身体を引き剥がした。
そして、再び女に乗り掛かると、体力が限界に達するまで「導引」を仕掛け続けた。
やがて体力の限界に達し、女の中に大量に放出した俺は女から離れると床の上に大の字に横たわった。
失神していたのか、女は死んだように動かなかった。

体力が回復すると俺の体は驚くほど軽く、力が漲っていた。
あれ程俺を苛んでいた情欲の炎も冷めていたが、気力や霊力は充実し切っていた。
横たわる女を置いたまま、俺は当てがわれていた自室へと戻った。


127 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:09:20 ID:???0
俺は全裸でベッドに横たわったまま気を整えていた。
暫くするとドアをノックする音がして、部屋に女が入ってきた。
山佳 京香だった。
京香は着ていたガウンを脱ぐと無言で俺の身体に唇と舌を這わせ始めた。
京香の口技は風俗嬢顔負けのテクニックだった。
やがて、俺の上に跨り身体を沈めてきた。
ゆっくりと腰をくねらせながら深く身体を沈め、強く締め付けながら吸引力を強め、亀頭の位置まで引き抜く腰使いは堪らなかった。
「導引」を掛けながらの京香の腰使いに、素の状態の俺ならば耐え切ることは出来なかっただろう。
だが、俺の気力は先ほどの女から奪った精気によって充実していた。
更に「気」を整えて、精神的に極めて冷静な状態にあった。
情欲や快感に溺れて頭がピンクに染まった状態でなければ「房中術」は成功しない。
京香が「息」をつき、「導引」が途絶えた瞬間に俺は攻勢に転じた。
俺は京香を攻め立て頃合を見て「導引」を仕掛けた。
京香は抵抗したが、不発に終わった「導引」の疲労や、元々の体力差からやがて俺の軍門に下った。
どんなに修行を重ね、若々しい容姿や肉体を保っていたとしても、所詮は還暦目前の初老の女に過ぎないのだ。


128 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:10:10 ID:???0
俺は体力の限界を超えて導引を仕掛け続けた。
性エネルギーを根こそぎ引き抜かれた京香の快感は凄まじいものだっただろう。
俺は「導引」を止め、京香の中に大量に放った。
ピクリとも動かない京香を見下ろしながら俺は思わず独り言を呟いた。
「若作りしていても、ババアはババアだな・・・」
大量の精気を抜かれた為だろう、京香の肌からは先ほどまでは溢れていた瑞々しさが失われていた。

やがて、俺の体の下で京香が目を覚ました。
俺は京香の中で硬さを取り戻したモノを再び動かそうとした。
京香は「もう止めて!」と叫んだ。
俺が京香の中から引き抜くと、彼女は俺に言った。
「アンタ、何者なの?」


129 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:10:47 ID:???0
俺は答えた。
「アンタが壊した松原 正志の縁者と崔 京子に雇われた拝み屋・・・見習いだ」
更に続けた。
「アンタ達はお互いに房中術を掛け合って、時には気力や霊力の強い人間から精気を奪い取って瞑想を行っていたんだろ?
他人の精気を奪って、怪しい薬物を使って得た神秘体験とやらはそんなに素晴しいものなのかい?」
京香は答えた。
「ええ、何者にも代え難いほどにね。頭の固いグルは持戒だ功徳だ、薬物に頼らなくても神秘体験は得られるだのって言うけどね・・・
辛気臭い生活を一生続けても、シャンバラを覗ける機会は一生に一度有るか無いかじゃない?
房中術に秘薬・・・確かに反則かもしれないけれど、到達点が同じなら合理的にやったほうが良いとは思わない?
それに、房中術で精気を貰った人も、普通では感じられない物凄い快楽を得た訳じゃない?
まあ、快楽に溺れて破滅しちゃう人が殆どだけどね。
快楽に溺れるのは本人の勝手。松原君もいいモノを持っていたんだけどね・・・アンタと違って修行が足りなかったようね」


130 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:11:33 ID:???0
京香は更に続けた。「それに、そう言うアンタも余り偉そうなことは言えないんじゃない?大分ご乱交を重ねてきたみたいだけど。
アンタのそんな所が気に入って『特別コース』にお誘いしたんだけどねw」
「他心通・・・いや、宿命通かい?」
「あとは天眼通もね。天耳通は・・・あんた、いっつもインストラクターや女の子達の胸やお尻を見て助平な事ばかり考えていたから、聞くに堪えなかったわw」
俺は頭を掻きながら京香に言った。
「なあ、アンタにぶっ壊された松原 正志にアンタの娘、アンタらが食い散らかした元会員や援交のガキ共は皆、質の悪い憑物に纏わり付かれているんだ。
だから、俺たちみたいな拝み屋が出張って来る事になったんだが、何故だと思う?」
京香は「そんな事、知らないわよ」とぶっきらぼうに答えた。
俺は「それじゃあさ、お得意のクスリをキめてぶっ飛ぶインチキ瞑想で、いつものようにシャンバラとやらを覗いてきてくれよ。
精力が落ちて難儀しそうだが、アンタはそこに繋がっているんだろ?
ヤバそうだったら、ええっと胸から気を入れればいいんだっけ?しっかりフォローしてやるからさ。
首尾よくシャンバラに行けたら、俺の負けだ。
さっきの続きを楽しもうぜ。好きなだけ気を抜かせてやるから。
俺も嫌いじゃないしね」
京香は全裸のまま呼吸法を始め、気が満ちて来るとピンク色の怪しい錠剤を飲み下した。
やがて彼女の呼吸は浅くなり、体温や心拍は下がって行った。


131 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:12:27 ID:???0
俺がキムさんの下でケタミン注射を受けて「神秘体験」の予行練習をしたのは「特別コース」の3日ほど前のことだった。
「特別コース」を薬物を用いて幻覚を見せる、カルト宗教にありがちなインチキ「儀式」と踏んでいたからだ。
薬物らしいものも用いられたが、「特別コース」は目的は兎も角、比較的まともな「行」を行う本格的なものだった。
高まった気を全身に循環させて浄化して、丹田なり、ヨガ行者が重視する尾底に導いて溜め込めば文句の付け所はなかったのだろう。

ケタミンを静脈注射された俺は臨死体験とも形容される独特な幻覚に襲われた。
暗く深いトンネルに大轟音と共に吸い込まれた俺は、途切れそうな意識を何とか繋ぎ止めながら、幻覚を見続けた。
トンネルの向こうから突き刺す強烈な光、緑色の雲のカーテン、真っ赤な光の迷路。
この世の全てを理解したかのような形容し難い全能感。
言葉では表現不可能な異様な幻覚に襲われ続けていた。
トンネルに吸い込まれて数分後か数千年後かは判らなかったが、俺は元居た部屋に戻ってきていた。
身体には「実在感」があり、部屋の空気も感じられた。
誰か人の気配を感じて後ろを振り向くと、ソファーに深く身体を沈めた俺が居た。
俺は自分の身体に触れてみようとしたが、どうしても触る事が出来なかった。
更に俺は、テーブルの上の蝋燭の炎に手をかざしてみた。
手に熱さを感じることは出来なかった。


132 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:13:23 ID:???0
熱くないと思った瞬間、あれほどリアルだった自分の体や部屋の存在感は揺らいだ。
おれは、蝋燭から意識をそらし、部屋の出口を探した。
俺はビルの階段を下り、建物の外に出た。
普段と変わらない通りの雑踏。
現実感はあるものの、通行人は俺を避けず、俺も避けようしなかったが、俺が通行人にぶつかる事はなかった。
女霊能者の話では、瞑想修行中の霊能者は、この状態になると自分の知っている道をひたすら歩いて進むのだという。
道を進むと、やがて、これ以上先は知らないというポイントに至るそうだ。
これより先の、知らない道を進むには強い霊力や気力が必要だという事だ。
道が何処に続いているかは、術者の精神レベルや状態、煩悩や功徳、背負っている業などによってまちまちなのだという。
術者は六神通を駆使して「異世界」に分け入って行くそうだ。
この状態を指すのか、この道を辿る瞑想技法を指すのかは判らないが、チベットやインドでは、この「道」にまつわる瞑想を「リンガ・シャリラ」と呼ぶそうだ。
俺は「リンガ・シャリラ」によって道を辿る前に、聞いたことのない誰かの声に呼び戻され、シュワーという泡のような音と共に、元居た部屋の現実世界に引き戻された。
ケタミンによる臨死体験。魅惑的な幻覚世界だったが俺には非常に危ういものに思われた。
女霊能者の話では、見知らぬ道を突き進み、到達した世界が何処なのかを判断するには「漏尽通」の神通力が必要なのだという。
だが、漏尽通は非常に脆い神通力で、功徳を積み全ての煩悩を「止滅」させなければ発揮できないが、発揮できても自己の僅かな煩悩や願望、先入観によって容易に歪められてしまうそうだ。
六神通の他の神通力によっても歪められ、甚だしくは、他の五神通が得てもいない漏尽通を得たものと誤解させる。
それまでの修行で得た成果、現や果、「悉地」への執着を捨て、全ての神通力を放棄した先でしか漏尽通は得られないらしい。
神秘体験や神通力にのみ執着し、功徳を捨て、手段を選ばない京香たち「外道者」では、到底及びそうにない境地なのだ。


133 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:14:24 ID:???0
京香の気の雰囲気が変わり、俺はもしもの場合に備えて「気」を高めた。
深い瞑想状態にあるはずの京香の顔は、苦悶とも恐怖ともつかない表情で醜く歪んでいた。
やがて京香はガクガクと激しく震え始めた。
俺は、以前マサさんやキムさんに施された方法を真似て、京香の胸から気を一気に注入した。
電気ショックに打たれたかのように、京香はバチッと目を開いた。
どうやら「シャンバラ」には行けなかったらしい。
憔悴し切った表情は、京香を実年齢よりも10歳は老けて見せた。
松原や崔 京子に纏わり憑いていたものより、何十倍も濃密な「嫌な空気」が京香を取り巻いていた。
無理も無い。松原達に纏わり憑いていた「憑物」も、「嫌な空気」も、元はと言えば、京香が覗き込み、足を踏み込んで「繋がった」世界から溢れ出たモノなのだ。
俺には見えず聞こえず、何も知る事は出来ないが、京香は「修行」によって得た「神通力」によって、現世に戻っても尚、恐ろしいモノから逃れられずに居た。
多くの人から奪った生命エネルギーが枯渇して、強い光に隠されていただけの魑魅魍魎が見えるようになっただけなのだろう。
こんな短時間の間に、恐怖で人はここまで衰えるのかと驚きを隠せないほどに、妖艶で美しかった京香は老いさらばえていた。
俺はキムさんを呼び京香を女霊能者の元へと連れて行った。

女霊能者は京香の「気道」を断ち切り、京香の体内を通じて現世に繋がった、異世界への「通路」を断ち切った。
「業(カルマ)」が浄化されておらず、功徳の蓄積も全く無かった京香は薬物に「酔って」正常な判断力を持っていなかった。
恐らく、最下層の地獄に繋がった京香たちは、地獄の住民に騙されて、地獄を天界・シャンバラと思い込まされてしまったのだ。
自分のいる世界を正確に判断する為に必要な「漏尽通」を持ち得なかった京香たちには無理も無い事だったのだが。


134 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:15:21 ID:???0
女霊能者が松原や京子を祓わなかったのは、「憑物」の源泉である京香がいる限り祓っても無駄であるし、京香の「気道」を絶てば全ては片付くからだった。
「気道」を絶たれた事により、京香の40年以上に及ぶ「修行」の成果は永久に喪われた。
今生の「悪業(カルマ)」を浄化しない限り、気道は永久に繋がることはない。
それは即ち、来世の「無間地獄」への転生を意味すると言う事だ。

俺は肌を重ね合った縁と言う事で、以前、女友達のアリサの郷里を訪ねた際にお世話になった住職を京香たちに紹介した。
中途半端な「行」を齧った末に「魔境」に堕ちた若者を数多く救ったと言うあの住職ならば、今、正に「魔境」の底に沈み行く京香たちを救えるかもしれない・・・


135 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:16:24 ID:???0
飯を食いながら俺からそれまでの経緯を聞いていたマサさんが俺に言った。
「薬物と言うのは思った以上に危ない代物なんだ。
薬物によって人が見る幻覚は、酔っ払った脳味噌が見せる只のマボロシではないんだな。
ラリって幻覚を見ている間、人は『異次元の風』を確実に受けているんだよ。
その人の功徳や気力、霊力によって、薬物の見せる幻覚は楽しくも恐ろしくもなる。
ただ、確実に言えることは、薬物は身体を傷付け、霊的な、生命エネルギーの循環路である『気道』を傷付け、気の流れを滞らせる。
悪業が『業(カルマ)』となって気道を詰まらせ、気や生命エネルギー、魂の浄化を滞らせるのと仕組みは殆ど同じだ。
気の流れが滞って浄化されない人の見る幻覚は、確実に苦しくて恐ろしいものになって行くだろうね。
クスリに酔い、幻覚と共に『地獄』と繋がる度に、地獄との『縁』を深めて行く。
現世で深めた地獄との『縁』によって、次の来世に地獄に転生する確率は高くなるだろうね」


136 :シャンバラ ◆cmuuOjbHnQ:2008/10/18(土) 06:18:15 ID:???0
ところで、と、マサさんは言葉を続けた。

「お前、女難の相が出ているなw」

「?」

「アリサちゃんだっけ?彼女の霊感や霊力は相当なものだ。天眼通や天耳通、他心通くらいは持ってるかもしれないぞw」

「・・・マサさん、アリサに何か言いました?」

「『俺は』何も言ってないよ。彼女はお前を探していたみたいだけどねw
俺のは、敢えて言うなら宿命通ってヤツかなw
まあ、がんばれやw」

俺は花とアリサの好物のケーキを買って、アリサの部屋へ向った・・・。


おわり


149 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:42:22 ID:???0
どれくらい眠っていたのか、その時の俺には判らなかった。
だが、「ねえ、そろそろ起きない?私、もう行かなきゃいけないんだけど」と言う声で俺は眠りから覚まされた。
声の主は多分、アリサだったと思う。
頬に手を触れられる感覚で、朦朧としながらも俺は目を開いた。
眩しい白い光が俺の網膜を突き刺す。
徐々に明るさに慣れてきた俺の目は見知らぬ天井を見上げていた。
目が回り、吐き気が襲ってくる。
体が異常に重く、全身の筋肉が軋んで痛む。
状況が飲み込めずに呆然としていると、ベッドの横のカーテンが開き、見覚えのある女が俺の顔を覗き込んだ。
2・3年ぶりに見た顔だったが、姉に間違いなかった。
霧のかかった俺のアタマでは姉が何を言っていたのか判らなかったが、慌しい人の気配を感じ、俺は再び眠りに落ちて行った。


150 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:43:03 ID:???0
ヨガスクールの事件が終わり、マサさんと飯を食った後、俺はその足でアリサのマンションを訪れた。
インタホンを鳴らし、エントランスを通ってアリサの部屋まで上がると、アリサは俺を歓待した。
手土産の花とケーキの箱で両手が塞がった俺にアリサは抱き付いた。
「お仕事は終わったの?」
「ああ」
「う~、女の人の臭いがする・・・」
「えっ?!」
「・・・嘘よw」
リビングのソファーに腰を下ろす俺に紅茶とケーキを出すと、アリサは寝室へと引っ込んだ。
寝室から戻ったアリサはラッピングされた箱を俺に渡すと「ハッピーバースデー」と言った。
すっかり忘れていたのだが、俺が山佳京香ヨガスクールに潜入している4ヶ月弱の間に、俺の誕生日は過ぎていた。
箱の中身は、俺がその時使っていたものと同じカスタムペイントの施されたバイク用のヘルメットだった。
このペイント・・・マサさんが、俺の行き付けのショップを紹介したのだろうな・・・
俺はアリサに「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」と礼を述べた。


151 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:43:50 ID:???0
俺の言葉に「うん」と答えたアリサの表情は浮かなかった。
こういう時は殆どの場合、彼女は厄介事を俺に隠していた。
そして、彼女の厄介事とは、まず間違えなくストーカー関係のトラブルだった。
俺が彼女と知り合う切っ掛けとなったのも、彼女の知人経由で悪質なストーカーからのガードを依頼されたことからだった。
アリサには強い霊感と共に、人を惹きつける不思議な吸引力があった。
それがある種の男達を繰り返し惹き付けた。
アリサに惹き付けられた男達は、一様に彼女に対し強い嗜虐心を煽り立てられるようだ。
だが、アリサがストーカー被害を相談できる相手は、ごく少数の者に限られていた。
警察に相談すれば?と言う疑問もあるとは思うが、ニューハーフだった彼女はストーカー被害を警察に相談して余程屈辱的な扱いを受けたのだろう。
彼女は警察を全く信用しておらず、相談の相手は俺や、以前働いていた店のママなどに限られていた。
俺は、ママに言われたからではなく、アリサを守ることは俺の仕事・・・そう心得ていた。
だが、俺のストーカーに対する「制裁」が苛烈すぎたのだろう。
アリサはギリギリまで俺に隠して自己解決を図ろうとした。
自己解決・・・ストーカーが諦めるのを待って、ただ耐えるのが「解決」と言えればの話だが。
そもそも、ストーカー被害を第3者の力を借りずして解決するなど、まず不可能な事なのだ。
俺はアリサを問い詰めた。
アリサが俺に語った話は意外なものだった。


152 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:44:31 ID:???0
俺の不在中、案の定アリサはストーカーに付き纏われていた。
アリサはキムさんの「表」の仕事関連の事務を請け負っており、その関連で彼女のストーカー被害がキムさんの耳に入った。
自宅と事務所の往復は事務員の男性の申し出で、彼の通勤の車に便乗していたようだ。
だが、それだけでは心許なく、キムさんはかつて行動を共にしたことのある権さんをアリサのガードに付けた。
以前、「裏」の仕事に協力してくれたということで、キムさんの計らいによるノーギャラでの警護だった。
ストーカーの正体は意外な形で明らかになった。
犯人は北見という男だった。
北見は以前にもアリサに対してストーカー行為を働き、俺の手による「朝鮮式」のヤキで一度目は「電球」を、二度目は尿道でポッキーを喰わされた男だった。
北見のアリサに対する異常な執念は恐ろしいものだったが、そんな北見がアリサのマンション近くの路上で刺されたのだ。
北見の怪我自体は重傷ではあるが、命に関わるものではなかった。
警察は治療が終わり北見の意識が回復すれば、本人から犯人に付いての供述を得られると考えていたようだ。
しかし、麻酔から覚め、意識を取り戻した彼は心神喪失の状態にあり、何かに激しく怯えるばかりで供述を得られる状態では無かったようだ。
捜査は難航し、犯人は捕まらなかった。
だが、北見が再起不能になって、アリサへの嫌がらせはピタリと止んだ。


153 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:45:22 ID:???0
北見を刺した犯人は捕まらなかったが、アリサへのストーカー被害が止んだ以上、そこから出来る事は殆ど無かった。
しかし、依然アリサは自分に向けられる「監視の視線」と尋常ではない「悪意」を感じていた。
アリサの様子に権さんも何か感じる所が有ったのだろう、キムさんに「普通」の事案ではないかもしれないと報告した。
キムさんから話を聞いたマサさんは、俺が不在の間、アリサの相談を聞いていたようだ。
北見を刺した犯人は依然逮捕されておらず、アリサは不安に怯えていた。
キムさんの「有給休暇扱いにしてやるから彼女に付いていてやれ」との言葉で、俺はアリサの警護に付く事になった。
俺は、アリサの自宅と事務所の往復に付き添うと共に、事務所に詰めることにした。
アリサの事務所には先代所長の頃からの事務員の女性と、国家試験受験生だと言う根本と言うアルバイト事務員の男がいた。
この根本が、北見によるストーカー被害が始まって以来、アリサの送迎をしていた男だった。
俺は根本と机を並べて事務所の雑用をこなしつつ、自宅にいる時間以外はアリサと行動を共にしていた。
根本はアリサに対して恋慕の感情を抱いていたようだ。
決して悪い男ではなかったが、アリサの送り迎えは彼にとって貴重な時間だったのだろう。
「受験勉強の邪魔になっては悪いから」というアリサの言葉によってだったが、彼の貴重な時間を奪った俺の存在は面白くなかったようだ。


154 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:45:58 ID:???0
俺がアリサのガードに付いて2・3週間、特に変わったことは無かった。
アリサは怯えていたが、俺にはアリサの言う「悪意」とやらは感じることが出来なかった。
キムさんやマサの元でそれなりに場数を積んだ俺には、危険に対する嗅覚が備わっていた。
力のない俺が何とか無事にやってこれたのは、危険な空気や自分の手に余る危険を嗅ぎ分ける「嗅覚」のお陰だった。
だが、ある月曜日の朝、状況は一変した。
事務所に到着した俺は、一見いつもと変わらない事務所の空気の中に「殺気」を感じていた。
「殺気」はアリサではなく、俺に向けられたものだった。
普段と変わらぬ態度で必死に隠してはいたが、殺気の主は根本に間違えなかった。
俺がアリサの送り迎えをするようになってからも、根本がアリサのマンション近辺に遠回りして通勤している事に俺は気付いていた。
それでも俺の中で根本はストーカーとしてはノーマークだったが、この敵意は彼のストーカー行為を如実に表していた。
堅い商売であるアリサの体面も考慮して、俺は以前のような泊まり込みの警護はしていなかった。
北見のこともあって、アリサを監視するストーカーは、ターゲット本人ではなく、近付く異性に敵意を向けるタイプと俺は踏んでいた。
厄介なタイプだが、俺はアリサから離れたタイミングを狙ってストーカーが俺に向けてアクションを起す事を期待していた。
だが、俺は大きな読み違え、計算間違いをしていたらしい。


155 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:46:38 ID:???0
その前の週末、いつも通りにアリサを部屋に送った俺は、そのまま帰ろうとしていた。
そんな俺にアリサが『たまには寄って行きなさいよ』と声を掛けた。
結局俺は部屋に上がり込み、久しぶりのアリサの手料理に舌鼓を打った。
久々に口にしたアルコールも手伝ってか、そのまま俺達はベッドに雪崩れ込んだ。
寝物語の中でアリサは盛んに『いっそこの部屋に住んじゃいなさい』とか『危ない仕事は辞めて、このまま事務所に勤めてよ』といった言葉を繰り返した。
結局、俺は日曜の夕方までアリサの部屋で過ごしたのだが、そんな俺の行動やアリサとの会話を「聞かれていた」のなら根本の俺への敵意にも納得が行く。
後日、俺はキムさんのボディガードの文の伝で簡易検出器を借りて、勤務時間中に事務所を抜け出してアリサの部屋を調べ上げた。
案の定、アリサの部屋から3個の盗聴器が発見された。
俺は根本を挑発する為に、盗聴器をそのままにして、アリサの部屋に泊まり込んでの警護に方針を変えた。
目論見通り、根本の俺に対する敵意や殺意は日毎に強まっていった。


156 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:47:24 ID:???0
そんなある週末の事だった。
深夜、俺は異様な気配に目が覚めた。誰かに見られているような気配、強烈な「悪意」。
根本が来ていると悟った俺は、アリサを起さないようにベッドから抜け出て服を着るとマンションの外に出た。
人通りはなかったが「気配」を感じる。
盗聴電波の受信範囲から考えて、そう遠くない場所にいるはずだ。
俺は根本を探して付近を歩き回った。
少し先の公園前の路上に見覚えのある青のプジョーが止まっていた。根本の車だ。
エンジンキーは挿しっ放しで、助手席には受信機だろう、大き目のトランシーバーのような形状の機器が無造作に置かれていた。
そう遠くには行ってないはずだ。
俺は携帯でアリサに電話をすると、俺が戻るまで誰が来てもドアを開けないこと、コンポに入っているCDを掛けてくれと頼んだ。
助手席の受信機から伸びるイヤホンを耳に刺し、電源をいれ周波数調節のツマミを回した。
直ぐに受信機が音を拾った。アリサが好んで聞いていたクラナド、いや、モイヤ・ブレナンの曲が聞こえる。
盗聴器を仕掛けた犯人は根本に間違いないようだ。


157 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:48:37 ID:???0
俺は暗い公園の中に入って行った。
テニスコートの先の遊戯場のベンチのそばに人が倒れている。根本だった。
切創などは無かったがダメージは深そうだった。
見た所、「柔らかい鈍器」、ブラックジャックやサップグローブを嵌めた拳で執拗に打ちのめされた感じだった。
俺は救急車を呼び、アリサに連絡を入れた。
根本が病院に搬送されて2時間程して根本の両親とアリサが姿を現した。
アリサのストーカー被害の話は根本の両親も知っていたようだ。
根本の両親はアリサや俺に食って掛かった。
俺は根本の車の中にあった受信機を示して、アリサの部屋に盗聴器が仕掛けられていたこと、状況から犯人が根本である事を説明した。
根本の両親は衝撃を受けた様子だったが、それ以上にアリサのショックは大きかったようだ。
アリサは病院の待合室の床に力なくヘタリ込んだ。
北見の事件のこともあり、根本の回復が待たれたが、意識を回復した根本もまた、何かに怯えるばかりでまともに言葉を交わすことは不可能だった。


158 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:49:34 ID:???0
北見と根本、アリサに付き纏った二人のストーカーは何者かの手によって完全にぶっ壊された。
その意図や目的は判らないが、相手が只者でない事は確かだろう。
アリサの落込みや怯えは只事ではなかった。
アリサは「何で私ばっかり・・・もう嫌・・・」と嘆いた。
俺の発した「全くだ。次から次へと、何度も何度も。俺もいい加減うんざりだ」という言葉にアリサは更に俯いた。
「大体、何度も頭のおかしい連中に付き纏われてるくせに、懲りずに一人暮らしをしているのが良くない。
問題があるのはお前の方かもしれないな。お前、一人暮らしはもう止めた方がいいよ」
「・・・」
「また変なヤツに付き纏われても面倒だから、俺がお前を監視する。俺の部屋には大して荷物もないし、明日にでも早速な」
アリサは「えっ?」と、一瞬呆けたような顔で俺を見て、それから首を縦に振った。
こうして、俺とアリサの同棲生活が始まった。
新生活は暫くの間、平穏に続いた。
ある休日、俺達は近くのショッピングセンターに買出しに出かけた。
女の買い物ってヤツは無駄に長い。
連れ回されて少々うんざりした俺は「ここで待ってるから」と言って、ベンチに座って書店で買った雑誌を読んでいた。
そんな俺に声を掛けてきた女がいた。


159 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:50:06 ID:???0
一瞬、『誰だ、この女』と思ったが、直ぐに思い出した。
高校生の頃に付き合っていた「ノリコ」だった。
久しぶり、どうしてた?といった取り留めのない話で俺とノリコは盛り上がった。
ノリコと暫く話をしていると、アリサがカートを押しながらこちらに向ってきた。
アリサは俺たちの前に来るとノリコを一瞥して、俺に「どなた?」と聞いた。
いつも人当たりが柔らかく、おっとりした雰囲気のアリサには珍しく、その視線や声には険があった。
女の勘ってヤツは怖いな、と思いながら俺はアリサに「彼女はノリコ。高校の同級生。偶然にあって声掛けられちゃってさ」
ノリコには「彼女はアリサ。俺たち、今一緒に暮らしてるんだ」と紹介した。
俺はノリコに「俺達、これから飯を食いに行くんだけど、一緒にどうよ」と儀礼的に誘ってみた。
ノリコは「今日は遠慮しておくわ。また今度ね」と言って、俺達の前から去って行った。
帰りの車の中でアリサは無言だった。
俺が「どうしたの」と聞くと、アリサは「なんでもない」と答えたが、その声は硬かった。
ノリコの事を気にして機嫌が悪いのかなと思って、俺はアリサの手を握った。
握り返してきたアリサの手はビックリするくらいに冷たい汗でべったりと濡れていた。


160 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:50:43 ID:???0
その晩から、アリサは毎晩悪夢にうなされるようになった。
大量の寝汗をかきながら、苦しそうに呻くアリサを揺り起した事もあった。
どんな悪夢を見ているのか、アリサは語ろうとしなかった。
だが、ぎゅっと抱きしめて「ずっとそばにいるから、安心して寝な」と言うと安心するのか、やがて寝息を立てた。
アリサが毎晩悪夢にうなされている以外は、ストーカーの影も無く、生活は平穏そのものだった。
俺はキムさんの仕事に復帰した。
そんなある日、俺の携帯に見知らぬ番号から着信が入った。
電話に出ると、女の声がした。ノリコだった。
再会を祝して飲みに行かないか?という誘いだったが、アリサの調子が良くないからと言って俺はノリコの誘いを断った。
電話を切って、アリサの待つマンションへ向けて車を走らせていて、俺はふと思った。
『あれ?俺、ノリコに携帯の番号教えたっけ?名刺も番号交換もなかったよな・・・?』


161 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:53:34 ID:???0
帰宅して玄関のドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。
いつも夕食を用意して待っているアリサの姿がリビングにもダイニングにも見えない。
俺は寝室に向った。
寝室のドアを開けると、ベッドの上で毛布を被ったアリサが膝を抱えて震えていた。
只ならぬ様子に俺はアリサに駆け寄って聞いた。「どうした?何があった?」
アリサは俺に抱きついて、震えながら「判らない。でも、誰かに見られてる、強い悪意を感じるの。怖い」と言った。
俺は部屋中の明かりを点け、ダイニングの席にアリサを座らせて夕食を作り始めた。
作りながら俺は考えた。
絶対におかしい。
アリサの怯え方は普通じゃない。
だけど、アリサがあれ程までに怯える「視線」や「悪意」なら、俺にも何か感じられるはずだ。
アリサの恐怖は本物だ。だとすれば、俺の勘や感覚がどこかで狂ってる。
不味いな・・・


162 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:54:25 ID:???0
俺は自分の「嗅覚」に確信が持てなくなった。
アリサを、いや、自分自身の身さえ守れる確信のなくなった俺は極度にイラ付いていた。
そんな俺にノリコから誘いの電話が頻繁に入るようになった。
怯えるアリサを放置する事は出来ないし、俺自身が北見や根本を襲った襲撃者の影に怯えてピリピリしていて、そんな気分ではなかった。
そんな俺の神経を逆撫でするように、ノリコの電話の頻度は上がり、誘い言葉も際どくなって行った。
我慢できなくなった俺は「いい加減にしろ!」と一喝して、ノリコの番号を着信拒否にした。
ノリコの電話を着信拒否にして、俺のイラ付きの原因は1つ取り除かれた。
しかし、アリサのうなされ方は夜毎に酷くなっていった。
その晩もアリサは酷くうなされていた。
神経過敏になっていた俺は眠れずにいた。
だが、悪夢にうなされていたアリサが突然目を開け、上体を起き上がらせた。
アリサが起き上がったのとほぼ同時だった。
バイブレーターにしてホルダーに刺してあった俺の携帯が鳴った。
俺の背中にゾクッと悪寒が走った。
この悪寒は危険を知らせる俺の「嗅覚」そのものだった。


163 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:56:12 ID:???0
俺は携帯の方を見た。
有り得ない事に、着信拒否にしたはずのノリコからだった。
あれほどしつこかったノリコの電話もアリサと一緒の時には掛かって来た事は無かった。
まずい、この電話に出てはいけない・・・そう思った瞬間、アリサがホルダーから俺の携帯を取り上げ、電話に出た。
電話に出たアリサは真夜中にも関わらず大声で叫んだ「アンタなんかに彼は渡さない、この人は私が守る!」
そう言うと携帯を投げ捨てて、俺に抱きついて子供のように声を上げて泣いた。
俺はアリサを宥めると、表示されたノリコの携帯の番号に電話をかけた。
しかし、帰ってきたのは「この電話番号は使われておりません・・・」というアナウンスだけだった。
俺の背中に冷たいものが走った・・・
俺はアリサを伴ってマサさんの許を訪れた。
だが、マサさんやキムさんにも、俺やアリサに向けられた呪詛や念、祟りといったものは感じられないと言う事だった。
キムさんが「私の方で調べてみる。何かあったら直ぐに知らせろ。いつでも人を行かせられるように手配しておく」と言って、俺達は別れた。
北見や根本は「物理的」に暴行を受け傷を負っている。しかし、その後の魂を抜かれたような精神状態は霊的・呪術的なものを感じさせた。
俺にはもう、訳が判らなくなっていた・・・


164 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:57:18 ID:???0
アリサは悪夢の中で何を見たのか、電話でノリコに何を言われたのかを俺に話そうとはしなかった。
問い詰めた所でアリサは話さないだろうし、話さないのには彼女なりの理由があったのだろう。
聞いた所で、こちらからノリコに接触する術がない以上、俺にはどうしようもなかった。
ただ、キムさんの知り合いの「女霊能者」が作ってくれたと言う護符のお陰か、アリサの悪夢はどうやら収まった様子だった。
俺は、俺とアリサのために動いてくれている、キムさんの結果を待つしか成す術が無かった。

キムさんの連絡を待ち続けて何日経っただろうか。
恐ろしいほど静かな晩だった。
暗闇の中で俺は何者かの視線を感じて目を覚ました。誰かが俺を呼んでいる?
激しい敵意、殺気が俺を押しつぶさんばかりに部屋に満ちていた。
濃密で強烈な「害意」だったが、アリサは全く反応していなかった。
俺はベッドから抜け出し服を着替えた。
ジャケットの下には、権さんに渡されたイスラエル製の防弾・防刃チョッキを着込んだ。
スーツの下に着ても目立たないほど薄手だが、38口径の拳銃弾も貫通させないと言う優れものだ。
手には愛用のサップグローブを嵌め、鉄板入りの「安全靴」を履いた。
俺は部屋を出た。
ドアが閉まり、施錠の音が止むとマンションの廊下は空気が凍りついたかのように静かだった。


165 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 07:58:38 ID:???0
エレベーターで1階まで下り、エントランスを出た。
冷たい空気が肌を突き刺す。
俺は辺りを見回し、駐車場へと足を運んだ。
誰もいない、そう思った瞬間、背後から人の気配と足音が聞こえた。
振り返った瞬間、どんっと激しい衝撃を受けた。
男がナイフを腰だめして体当たりしてきたらしい。
ナイフの先端がチョッキを僅かに突き破り、腹の皮膚を裂いたようだ。
鈍い痛みと流れ出る血の感触を俺は感じた。
防弾・防刃チョッキを着込んでなければ一撃で終わっていただろう。
刺された瞬間に放った右フックが男の顎を捕らえたようだ。
サップグローブの重い打撃に男も吹っ飛んだ。
だが、男の手にはまだナイフが握られていた。
脳震盪でも起していたのだろう、フラフラと立ち上がろうとした男の右手首を俺は安全靴の爪先で狙い澄まして蹴り抜いた。
男の手からナイフが吹っ飛んだ。手首の骨は完全に折れていただろう。
俺は畳み掛けるように男の顎を蹴り上げ、男の腹に踵を踏み下ろした。
男は海老のように丸まって悶絶した。


166 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:06:12 ID:???0
俺は蹴り飛ばされたナイフを拾って男に近付いた。
ナイフはダガーナイフ。ガーバーのマークⅡという、名前だけは聞いたことのあるものだった。
右前腕の手首に近い部分が僅かに曲がっており、骨折は明らかだった。
右腕の骨折と腹部のダメージに俺は油断していた。
男の顔を見ようと近付いた瞬間、ヤツの左手が横に動いた。
俺は咄嗟に避けたが額に引っ掻かれたような『ガリッ』という衝撃を感じ、流れ出る血に俺の左目の視界は完全に塞がれた。
逆上した俺は今度は顔面を踵で無茶苦茶に蹴り付けた。
コンクリートに頭のぶつかる鈍い音が聞こえた。男はピクリとも動かない。
殺してしまったかもしれない・・・
俺は血でヌルヌルとした手で携帯電話を取り出し、キムさんの事務所に電話を掛けた。
駆けつけた車で俺と男はキムさんの事務所へと運ばれた。
俺の腹の傷は深さ1cm程だったが、切られた左額の傷は骨まで達していた。
カランビットと呼ばれる特殊な形状のナイフだった為に、思いのほか深く食い込んだようだ。
男のダメージは激しかったが、命に別状はないようだった。
呼びつけられた医者が俺の傷を縫い終わると、殺気立った徐と文が男にバケツで水をぶっ掛けた。


167 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:06:55 ID:???0
水で血が流されると、鼻は潰れ、前歯の殆どが折れて痣だらけだったが、それでも男がかなり整った容姿をしているのがわかった。
「鬼相」とでも言うのか、怒りとも憎しみとも言えない険しい表情がなければ、人の目を引く「美形」と言えるだろう。
色白で特徴のある女顔・・・似ている。。。
「・・・いいナイフを持ってるじゃないか。辻斬りの真似事か?
俺の仲間は運良く助かったが、殺る気満々だったようだな。お前、コイツに何の恨みがある?
お前のやり口には躊躇いってものが無い。何故この男を殺そうとした?」
文がそう言うと、横にいた徐が男の腹に蹴りを入れた。
男は背中を丸め呻いたが、その目には怯みや恐れは無かった。
むしろ、狂った眼光にその場にいた者は圧倒された。
「北見と根本を襲ったのもお前だな?・・・お前、星野 慶だな?」
俺が男にそう問うと、男は血の塊と言った感じの唾を吐き捨てた。肯定ということだろう。
文と徐は『?』な顔をしていた。
「こいつはアリサの、いや、星野 優の実の兄貴だ。実の『弟』に虐待を加えていた鬼畜の変態野郎だよ」
「何故今更姿を現した?逆恨みか何かか?」
すると、慶は気でも狂ったかのように馬鹿笑いを始めた。
「今更だと?俺はお前がアイツと知り合う前から、そう、女になる前からアイツの事を見ていたんだよ。何故だか判るか?」


168 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:07:42 ID:???0
「・・・まさか、守ってたとでも言うのか?」
無言で答える慶に徐が口を挟んだ。
「待て、待て、待て!それじゃ話の筋が通らねえだろ?
俺が言うのも何だが、あのネエちゃんを手前がぶっ殺されそうになっても体張って、ここまで守ろうってヤツはコイツしかいねえぞ?
お前が、あの女をクソ共から守りたいと言うなら何でコイツをぶっ殺さなきゃならねえんだ?」
慶は苦笑しながら答えた。
「お前らには判らないだろうなぁ。それはな、この男のせいでアイツが死ぬからだよ」
「ふざけるな!」と食って掛かる徐を制して俺は慶に尋ねた。
「それは、ノリコの事か?」
「その女が誰かは知らないが、アイツを手に掛けるのはお前自身だよ。俺達兄弟には判るんだ。
『勘』と言うよりはもう少しハッキリした感覚だ。アンタにも有るんだろう?
そうでなければ、俺はアンタを確実にブッ殺せていたはずだ。
アンタ自身、信じられないかも知れないが、アイツを殺すのはアンタだよ。
アイツは生まれた時からどうしようもないクズ共や、色んな不幸を呼び込んで来た。いや、生まれてきた事自体が不幸といえる疫病神だ。
酷い目や危険な目に嫌になるくらい遭って来て、そういうものに対する勘は俺やアンタより数段鋭いはずだ。
判ってるはずだよ。アンタが自分にとってどれだけ危険な存在か。アイツはこっちに向ってる。本人に聞いてみるがいい」


169 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:08:37 ID:???0
文と徐は顔を見合わせた。
事務所に詰めていた二人は俺に呼び出され、俺達を事務所に運んで医者を呼んだが、アリサに連絡はしていなかった。
しかし、5分ほどするとインターホンが鳴り、権さんがアリサを伴って現われた。
室内に入ってきたアリサは慶の姿を見て凍りついた。
かつてアリサは、兄である慶の手により、かなり酷い虐待を日常的に加えられており、兄の存在はトラウマとなっていた。
以前、俺に伴われて郷里に戻った折には、実家に近付いただけでパニック障害と言うのだろうか?過呼吸の発作を起していた。
それ程までに慶の存在は恐怖の対象であり、その実物が目の前に現われ、アリサはショックを受けていた様子だった。
今にもへたり込みそうな身体を権さんに支えられたアリサに俺は「大丈夫か?」と声を掛けた。
声に反応して俺の方を見たアリサは、血塗れの俺の姿を見て一瞬、貧血でも起したのか膝がガクッと折れた。
また過呼吸の発作でも起していたのか、小刻みで苦しそうな息をしながら、権さんの腕を払ってフラフラと俺の方に歩いて来た。
アリサは膝を着き、涙を流しながら俺の両頬に触れると「酷い・・・兄さんが、やったの?私のせい?」と言って、俯いたまま黙り込んだ。
重い空気の室内に聞こえるのはアリサの苦しそうな呼吸だけで、誰も口を開こうとはしなかった。
やがて、アリサの呼吸は落ち着いてきた。
アリサが俺の頬から手を離したので『大丈夫か?』と声を掛けようとした瞬間、彼女はボソッと何かを呟いてフラフラと立ち上がった。
立ち上がり、テーブルの上に並べられた慶の所持していたナイフの一本を取り上げると、般若の形相で「殺してやる!」と叫んで慶に襲い掛かった。


170 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:11:09 ID:???0
徐と文が慌ててアリサを取り押さえた。
ナイフを取り上げられてもアリサの興奮は収まらず、履いてたパンプスを慶に投げつけた。
傷のせいか、医者に注射された薬のせいかはわからないが、熱に浮かされたような状態になっていた俺は重い身体を引き摺るように、座っていたパイプ椅子から立ち上がった。
俺は、徐に後ろから捕まえられ、慶から引き離されたアリサの頬に平手打ちを入れた。
「俺は大丈夫だから、落ち着け!」、そう言うと、アリサは子供のようにわんわん声を上げて泣き始めた。
アリサが泣き止んだ所で、「10年振り?いや、もっとか?久々の再会だろ?言いたい事があったら言ってやりな。コイツもお前に言いたい事があるらしい」
熱が上がってきたらしく、緊張が抜けて立っていられなくなった俺は床に座り込み、壁に寄りかかった。
慶とアリサの会話は暫く続いたが、意識が朦朧としていた俺には話の内容は届いてこなかった。
暖房を入れ、権さんが毛布を掛けてくれていたが、それでもひたすら寒かった事だけを覚えている。
やがて、話が終わったのだろう、権さんが俺の肩を揺すって「おい、大丈夫か?」と声を掛けてきた。
文が俺に「コイツはどうする?」と聞いてきた。
俺はアリサと慶を見た。
慶は「煮るなり焼くなり好きにするがいい。覚悟は出来てる」と言った。
俺は権さんの顔を見てから「二度と俺達の前に現われるな。警察に出頭するなり、逃げるなり勝手にしろ。次は無い」と言った。
徐が慶の手足を縛めていたタイラップを外すと、慶はヨロヨロと立ち上がった。


171 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:12:01 ID:???0
アリサと慶が何を話したのかは判らなかったが、アリサはもう怯えてはいなかった。
慶のアリサを見る目も穏やかだった。
去り際に慶が言った。
「優・・・いや、アリサ。お前は、自分に降りかかる悪意に抵抗する事も無く、ただ流されてきた。
さっき、俺にナイフを向けたのが自分でした初めての反撃だろ?
お前が、自分自身の力で立ち向かわなければ、お前自身だけじゃなく、その男も死ぬぞ」
そう言うと、何処にどうやって隠していたのか、一本のナイフを取り出し、『餞別だ』と言ってアリサに投げ渡した。
ナイフに詳しい文の話では、ラブレスの「ドロップハンター」、ブレードの両面に裸の女が表裏刻印された「ダブルヌード」と呼ばれるナイフマニア垂涎の珍品らしい。
骨まで達した顔面の傷が膿み始めていた俺は高熱を発し、キムさんの知り合いの病院の個室に1週間ほど入院する羽目になった。
顔面の傷はケロイド状に盛り上がり、そのまま残った。
退院した俺は、権さんに「今は彼女の為にならない」と言われ、アリサの部屋ではなく、元いたアパートの部屋に戻った。
入院中、アリサ達は見舞いに訪れたが、微妙な空気が流れていて、退院の連絡はしたが、その後アリサとは連絡を取れずにいた。
アリサたち兄妹が何を話していたのかは、権さんも、文や徐も話そうとはせず、聞くなと言う態度がはっきりしていたので、俺に知る術は無かった。
アリサと連絡を取らなくては・・・そう思いながらもズルズルと時間が経って行った。
そんなある雨の日の夜、アリサから俺の携帯に着信が入った。


172 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:13:13 ID:???0
着信が入る瞬間、俺の背筋には危険を知らせる『悪寒』が走っていた。
電話越しのアリサの声は、電波のせいか、喉の調子でも悪いのか・・・いつもと少し違っていたと思う。
俺はアリサの「今すぐ会いたい。出てこれる?」と言う言葉に「判った」と答えてアパートを出た。
アパートから細い路地を抜けて大通りに出た。
歩行者信号が青に変わり横断歩道を渡り始めた瞬間、俺は眩しい光に照らされた。
ワンボックスカーが猛烈なスピードで突っ込んでくる。
俺は、はっきりと見た。
運転席で女が・・・ノリコが笑っていた。
俺の身体は金縛りにあったかのように硬直した。
その瞬間、俺は強い力で背中を押された。
続いて、激しい衝撃に弾き飛ばされる感覚。
硬くて冷たい、濡れたアスファルトの感触と、ドクッ、ドクッという熱い感覚を頬に感じながら、俺は闇の底に沈んで行った。


173 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:17:19 ID:???0
俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
病院に搬入された時、俺は生きているのが不思議な状態だったらしい。
骨盤と脛骨、肩と鎖骨の骨折。頭蓋骨の陥没と顔面の骨折。
頚椎や脊椎にもダメージを負っていた。
出血多量でショック症状を起し、病院に搬送中、救急車の中で心停止も起していたらしい。
俺は1ヶ月以上意識不明の状態で生死を彷徨っていたそうだ。
そんな俺に姉が泊りがけで付き添ってくれていた。
意識が戻った俺は、ドクターが「前例が無い」と言うスピードで回復して行った。
個室から大部屋に移ると、友人達が入れ替わりで見舞いに訪れた。
意識が戻って暫くの間、俺は事故の前後の記憶を完全に失っていた。
だが、キムさんと権さん、そして友人のPが見舞いに来た時に、俺は何の気なしにキムさんに尋ねた。
「一度、来てくれていたような気もするけど・・・アリサが顔を見せてくれないんですよね。今、忙しいんですか?」
姉も、キムさんも権さんも俺と目を合わせようとしない。
だが、『アリサ』の名を口にした瞬間、あの晩のことを俺は思い出した。


174 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:19:04 ID:???0
俺はアリサと待ち合わせをして、待ち合わせ場所に向っていたんだ・・・アリサはどうしたんだ?
そして、俺はPに言った「俺を車で撥ねたのはノリコだ。俺は撥ねられる瞬間、確かに見た」
Pが言った。
「ノリコ?誰だそれは?それに、雨の夜じゃヘッドライトの逆光で運転席の人の顔なんて見えるわけ無いだろ」
俺は「何言ってんだよ。ノリコだよ!俺が高校の頃付き合ってた子だよ。お前も一緒に良く遊んだじゃないか!」
Pは「お前が付き合ってたのは、李先輩の妹の由花(ユファ)だ。お前と友人関係はかなり被ってるいるけどノリコなんて女は知らないよ」
「待ってくれ。そんなはずは・・・アリサに聞いてもらえば判る。アイツもノリコに会ってるから!間違いねえよ!」
興奮する俺の肩に姉が手を置いて言った。
「その、アリサさんはね、あなたと一緒に事故に遭って亡くなったのよ・・・」
「・・・嘘だろ?」
権さんが「本当だ。お前たちの事故を最初に発見して通報したのは朴だ。
お前に付き纏ってる女の話があったから、社長の指示で彼女とお前を引き離したんだが、それが裏目に出た。
彼女には俺の独断で朴を付けていたんだが、彼女は毎晩、お前のアパートの近くまで様子を見に行っていたんだよ。
あの晩、お前は慌てた様子でアパートを出て行き、彼女もお前を追っていった。
彼女に気付かれないように朴も付いて行ったんだが、突然の事にどうしようもなかったんだ」
俺達を撥ねた車は、飲酒運転で検問を無視して追跡されていた若い男の車だったらしい。アリサは即死だったそうだ。


175 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:19:56 ID:???0
アタマが真っ白になった俺にキムさんが続けた。
「お前の言ってたノリコと言う女性に付いて調べたよ。幼稚園から小中学校、高校の同窓生まで調べたが該当する女性はいなかった」
俺の頭は混乱の極みにあった。そんな、馬鹿な・・・ノリコが存在しないなんて。。。
だが次の瞬間、俺は愕然とした。
Pの言う由花の顔は彼女とのエピソードも含めてはっきりと思い出せるのだが、ノリコの顔も彼女とのエピソードの一つも思い出せないのだ。
俺は震えながら拳を握り締めた。
そんな俺に姉が言い難そうに言った。
「ねえ、あなた、子供の頃に川で溺れた事覚えてる?」
「ああ」と俺は答えたが、俺の記憶は曖昧だった。
俺が小学校低学年の頃に川で溺れて死に掛けた事は事実だったが、俺には、その事故の詳細やそれ以前の幼少の頃の記憶は全く無いのだ。
姉は続けた。
「あなたは覚えていないのかもしれないけど、あなたは周りに『ノリコちゃんに突き落とされた』と言っていたのよ」
俺にそんな記憶は無かった。姉は更に続けた。
「あなたが小学校に上がる前、P君たちとよく遊ぶようになる前、あなたは一人遊びが多い子だったの。
お父さんがあなたを出来るだけ外に出さないようにしていたからね。
あなたは時々家から姿を消して家族を慌てさせた。そんな時、いつも言ってたわ。『ノリコちゃんと遊んでた』ってね」
更に話は続いた。


176 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:20:46 ID:???0
どういう理由でかは判らないが、幼稚園に上がるまで、俺は髪を長く伸ばし、下着に至るまで女の子用の服装を身に付けて育てられたらしい。
親父が生まれるまで、俺の実家では何代にも渉って女の子しか生まれなかったそうだ。
祖父は長女だった祖母の婿養子だった。
跡取りにと、男の子を養子にした事もあったようだが、皆、幼いうちに事故や病気で死んでしまったそうだ。
女達も嫁ぎ先で男の子を産んだ者は居なかったようだ。
俺が女の子の格好で育てられたのは、どうやら、そういった事情による「厄除け・魔除け」的なものらしかった。
姉や、近所の年上の女の子たちは俺に自分の服やお下がりを着せたりして、「女の子」、いや、半ば着せ替え人形として遊んでいたようだ。
姉の記憶が正しければ、その時、女の子、或いは「人形」として俺を呼ぶ名前が、誰が言い出したのか「ノリコ」だったそうだ。
俺が川で溺れ死に掛けた時、親父は俺の写真をプリントからネガに至るまで全て焼却してしまっていた。
姉や妹の写真は残っているのに・・・
川での事故以降の写真は、姉や妹の物よりもむしろ多い位だったし、俺自身が写真を残したりアルバムを見返す嗜好が希薄な為、全く気にしてはいなかったのだが。
姉の話を聞く中で、俺の中でゴチャゴチャに絡まっていた糸が解け、一本に繋がっていくような感覚があった。
だが、俺は自分の脳裏に浮かんだモノを見たくなかった。
気づかない振りをして、封じ込めてしまいたかった。
だが、アリサを喪った現実と悲しみがそれを許さなかった。
俺の怪我の回復とリハビリは順調に進み、ドクターや理学療法士達の予想を大幅に短縮して退院の日を迎えた。
退院の日、担当医が言った。
「殺しても死なない人間って言うのは、君みたいな人を言うんだろうね。僕にとっては驚きの連続だったよ。
でも、過信はいけない。亡くなった彼女さんの分まで命を大切にね」


177 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:21:56 ID:???0
俺はアリサの納骨の為に、星野家の菩提寺を訪れた。
アリサの唯一の肉親である慶は行方不明で連絡の仕様が無かった。
アリサの供養が終わって、俺は以前にも世話になった住職に呼ばれて、鉄壷やヨガスクールの事件も含めて、それまでの事を話した。
アリサの事を話し終えると、住職が言った「不憫だ・・・」と
俺は「はい」と答えた。
住職は言った「・・・お前さんの事だよ」
「お前さんの会ったノリコと言う女は、お前さんも判っているんだろう?お前さん自身が作り出した物の怪と見て間違いは無い。
ある資質を備えた幼い子供は目の前に幻影を実体化させて遊び相手にすることがある。
中には実体化した幻影に連れ去られて、姿を消してしまう子供もいる。『神隠し』の一種だな。
この資質は、行者や修行者、霊能者などにとって重要なものなんだよ。
イメージを幻影として視覚化する力・・・仏像や仏画、曼荼羅などはこの力を補助する為のものでもあるんだ。
私は、この力こそが『神仏』を人間が生み出した力だと思うんだ。
お前さんは、この力が特に強いみたいだね。
他者による強力な干渉があったにせよ、行の進み方は早いし、験の現われ方も強い。
鉄壷を供養したという技法も確かに初歩ではあるかもしれないが、資質が無い者には不可能な業だよ」


178 :幻の女 ◆cmuuOjbHnQ:2008/11/30(日) 08:23:30 ID:???0
しばし沈黙してから住職は続けた。
「自ら生み出した幻影に殺される・・・お前さんも、お前さんの家系も相当な因果を持っているんだろうね。
お前さんには確かに強い死の影が纏わり付いている。『魔境』とは違った、根深い影だ。
昔から星野の家の者は霊能の力が強い。長男坊の慶も、お前さんに纏わり付く、『妹』の命を刈り取りかねない程に強い死の影を見たのだろうな。
けれども、お前さんの運や生命力はそれ以上に強いようだ。まだ、生きて遣らねばならない事があるのだろう。
生きている間に、お前さんは自分自身の因果と向かい合わなければならない時がきっと来る。それまで、怠らず、十分に備えることだ」
それにしても、と住職は続けた。
「お前さんの生み出した幻影を一緒に見た彼女・・・お前さんと、魂の深い所で繋がっていたのだろうな。
そんな相手は幾度六道を輪廻して転生を重ねても、そう出会えるものではないだろう。
いや、輪廻転生とはそういう相手を求める魂の彷徨なのかもしれない。
そんな相手に今生で巡りあえたお前さんが羨ましくも、不憫でならないよ・・・」
俺はヨガスクールの事件で関わった山佳 京香たちの事を住職にお願いして寺を後にした。
山門を出て振り返り、一礼してから俺はサングラスを掛けた。

あの日から季節が一巡しようとしていた。
サングラス越しに冷たい風が目に沁みる。
駐車場へと向う俺の視界はジワリと歪んでいた。


258 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:18:36 ID:???0
アパートの部屋に戻って一服していると、ドアをノックする音がする。
・・・もう、こんな時間か。
ドアを開けると大家のオバサンが若い女を伴って立っていた。
「金子さん、悪いけど、また、なっちゃんをお風呂に連れて行ってくれる?」
「いいっすよ。それじゃあ、なっちゃん、俺と一緒に風呂に行こうか?」
築40年以上のそのアパートには風呂がなかった。
最寄の銭湯まで歩いて10分ほど。
鼻歌を歌いながら歩いていた奈津子が俺の手を握ってくる。
手を握り返して顔を向けると、奈津子は童女のような笑顔を見せて握った手を振る。
半田 奈津子・・・彼女が今回の俺の仕事のターゲットだった。
 
『仕事』とは、要するに奈津子の拉致だった。
乗り気のしない俺は、一度はこの仕事をキャンセルした。
しかし、結局、シンさんの強い要請でこの仕事を請けることになったのだ。


259 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:19:30 ID:???0
半田 奈津子は20代女性。
家族構成は母親の半田 千津子と母一人、子一人。
彼女の戸籍に父親の名はない。
半田親子は奈津子の幼少の頃から、生活保護を受けながら、このボロアパートに住んでいた。
顔写真の奈津子は愛らしい顔立ちをしていたが、何処となく違和感を感じさせた。
資料によれば、奈津子は知能に少々問題があり、療育手帳も受けていた。
母親の千津子は日常生活に問題はないと言う話だったが、読み書きが殆ど出来ないと言う事だった。
病弱で寝たり起きたりの母親と知能障害を抱えた娘の世話をしていたのは、アパートの大家でもある某教団信者の女性だった。
半田親子も、母親が元気だった頃からその教団の信者だった。
娘の奈津子には、教団斡旋による韓国での結婚式の話が持ち上がっていた。
その地区を取り仕切る教団幹部の強い勧めと言うことだった。
確かに、問題の多い教団ではあった。
教団の布教方法や霊感商法、人身売買の疑いも囁かれる『合同結婚式』で韓国に渡った多数の日本人女性の失踪・・・
半田親子の入信の経緯も自由意志によるものだったのかは怪しい。
だが、社会の片隅に放置されていた親子に救いの手を伸ばす者は、その教団・信者だけだったのも事実だ。
家族の依頼による奪還ならまだしも、余りに理のない行為に思えた。
頭の弱い女一人を拉致するなど、半日もあれば済む仕事だろう。
誰の、どんな目的による依頼だかは知らないが、そこらのチンピラに金を握らせれば簡単に片が付く。
少なくともキムさんや、ましてやシンさんが手を下すべき類の仕事にはどうしても思えなかった。


260 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:21:10 ID:???0
再度、この仕事を要請してきたシンさんに、俺は「何故、俺なんですか?」と尋ねた。
「訳あって、任せられる者がいないんだ・・・何とかなりそうなのは君くらいしか思いつかなかった。
キムやマサには、この仕事は無理なんだよ・・・それに、色々と問題があってね」
シンさんは半田親子に付いての別のレポートを俺に渡した。
レポートによれば、シンさんたちは半田親子を20年以上に渉って監視し続けていたことになる。
レポートを読み進めるに従って、俺の背筋には冷たいものが走った。
レポートの内容が正確ならば、一見、人畜無害に見えるこの親子は恐るべき存在だった。
果たして、俺に勤まるのか?
キムさんがシンさんに促されて「どうしても無理なとき、少しでも危険を感じたら躊躇なく使うんだ」と言って、黒いヒップバッグを渡した。
中には油紙と新聞紙で厳重に梱包されたオートマチック拳銃と予備弾倉が入っていた。
・・・ありえねえ!・・・正直、俺は目の前に現われた物と、これを「使え」と言うキムさん達にドン引きしていた。
戸惑う俺に、銃の説明と一緒に、キムさんは半田親子が監視されるようになった経緯を話し始めた。
話はキムさんとマサさんの修行時代、呪術師として駆け出しだった頃に遡る。


261 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:21:59 ID:???0
ある時、シンさんの属する組織にある依頼が舞い込んだ。
それは、ある呪術師の抹殺だった。
その頃、複数の有力者に雇われた数グループの呪術師が、呪詛と呪詛返しを仕掛け合う『呪術戦』を繰り広げていた。
実際には、高い地位に上り詰め、権力の座に座るような強運の人物に対する『呪詛』を成功させるのは、ある一定の条件を満たさないと非常に困難だと言う事だ。
宿業や運気が下降局面に入った所で、マイナスの流れを加速させる形で行わないと呪詛の効果は現われないらしい。
呪詛によって滅ぼされる者は、ある意味、『運』や『功徳』を使い切って、滅びるべくして滅ぼされて行くのだ。
それ故に、天運を味方に付けている者、宿業や運気の上昇局面、絶頂期にある人物に呪詛を仕掛けて成功させることは難しい。
だが、その『呪術戦』は、権力闘争に勝利して絶頂期にあった、ある男の死によって一旦終息した。
古くからの日本の呪術師グループには、いくつかの不文律が存在するということだ。
例えば、国を導く重要人物を、権力闘争の為に『呪殺』することは基本的にしないらしい。
そこが、呪術師が『呪殺』を用いて権力闘争に積極的に加担し、国と民族を導く資質を持った『指導者』を根絶やしにして亡国を加速させた朝鮮との決定的な違いらしい。
いわば、呪術師間での暗黙の馴れ合いなのだが、その男の死は『不文律』に反するものだった。
また、その男を守護していた、『業界』でそれなりに名の通った呪術師も命を落としたということだ。
更に、他の有力者に付いた呪術師にも、呪詛によると思われる変死・事故が相次いだ。
無差別に呪詛を撒き散らし始めた強力で危険なその呪術師を、呪術界、少なくとも関与した呪術集団は放置できなくなった。
そして、『仕事』以外では、呪術師相互で呪詛は仕掛け合わないという、『不文律』に従わない危険人物を消す仕事が、シンさん達の属するグループに回ってきたのだ。


262 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:23:52 ID:???0
かなり古い成り立ちを持つシンさん達のグループは、『呪殺』も受け持つ専門の呪術師を抱えていた。
榊という日本人呪術師だ。
国内の呪術集団には横の繋がりがあり、この国を亡国に導く『危険人物』に協力して呪殺を仕掛けることも、ごく稀にだがあるらしい。
また、呪術師や呪術集団が、他の呪術集団に属する呪術師を雇ったり、大掛かりな呪法への協力を依頼することも、そう珍しい事ではないようだ。
シンさん達のグループの『呪殺師』だった榊は、キムさんとマサさんの『師匠』の一人でもあった。
榊は、シンさんの属する呪術グループに何代も属し続けた強力な呪術師家系の出身者だった。
困難ではあったが、榊は確実にこの仕事を遂行する力を持っていた。
しかし、榊は自らが所属する呪術師グループと日本の呪術界を裏切った。
消すべき相手の『呪術師』を連れて逃亡したのだ。
榊が連れて逃げた『呪術師』、それが半田 千津子だった。
関係した呪術師グループや裏社会の人間に追い詰められた榊は最悪の行動を取る。
依頼者や関係呪術師グループの秘密をネタに彼らを脅迫したのだ。
依頼者のプライバシーや秘密に深く関わる呪術師・祈祷師としては最悪の、そして命取りの行動だった。
更に、榊はシンさん達のグループが保有していた呪術や呪物のデータを手土産に某教団の下に走った。
どうやら、日本国内の『呪術・呪物』の情報と引き換えに、政・官・財界に深く食い込んだ、韓国発祥の某教団に千津子の安全の保障を求めたらしいのだ。
その話を聞いて、俺はあることに思い当たり、キムさんに尋ねた。
「もしかして、例の『鉄壷』の情報も、榊から件の教団に渡ったものなのですか?」
以前、俺が関わった、朝鮮民族の生命を生贄に、日本皇室を滅ぼさんとした呪詛の呪物である『呪いの器』
封印場所から、何者かの依頼を受けた韓国人窃盗団の手により盗み出された『鉄壷』は、盗品屋の柳から問題の教団の幹部だった西川達の手によって奪われた。
状況から、韓国人窃盗団に『鉄壷』の盗み出しを依頼したのも西川達だったのだ。
「その可能性は否定できないな。まあ、他のルートからの情報に基づいたものかもしれないが。
奴らは、あらゆる方面から、呪術や呪物、『能力者』の情報を収集しているからね」


263 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:24:49 ID:???0
その教団に対する俺の評価は、宗教を隠れ蓑にしたマルチ商法の集団という程度のものだった。
政・官・財界に深く食い込んでいるのも、結局の所、世俗的・経済的利益追求の為と思っていたのだ。
だが、俺がキムさんに雇われるテストケースとなった事件で、信者から運気を奪い取る邪法を仕掛けていたカルト教団と同様、この教団の闇も深かった。
問題のS教団の最高権力者である名誉会長は色欲と名誉欲、金銭欲にまみれた下種な俗物でしかない。
今回のT教団の韓国人教祖夫妻もまた、それなりのカリスマ性はあるのかも知れないが、色欲会長と同等以下の俗物にしか見えなかった。
しかし、T教団はS教団と比較にならない位に、危険で根深い団体なのだということだった。

T教団は成立当初から、単なる宗教団体の枠を超えた存在だった。
戦後、アメリカはソ連・中国・北朝鮮・ベトナムといった社会主義国を包囲する為に、全アジア地域に対する反共軍事同盟を結んだ。
更にアメリカは公然たる軍事的、外交的活動の陰で、CIAという巨大な諜報・謀略機関を使い、各国の財界、政界、軍隊、警察から右翼やヤクザに至る反共勢力を集めた。
世界各地で露骨な反共運動、密かな謀略活動を行わせ、気に入らない政府を流血のクーデターで転覆させ、指導者を暗殺した。
この、アメリカの国策による反共産・社会主義の流れの中で誕生したのが韓国・P政権であった。
T教団は、宗教団体であると同時に、韓国における反共活動組織として、韓米両政府の力をバックに急成長したのだ。
その頃の日本政府も、国鉄労組による左翼活動や安保闘争などに手を焼いていた。
米CIAにとっても、安保闘争におびえた日本の支配層にとっても、共産活動に対抗する、既成右翼勢力ではない新しいタイプの反共団体が必要であった。
特に献身的・無条件に、疑いを抱かず、盲目的に反共活動だけに専念する若いエネルギーが求められた。
そこで目を付けられたのが、韓国においてキリスト教原理主義のもと、数多くの若者が献身的に活動しているT教団だった。
日本に上陸したT教団は、政界・財界・警察を中心とした官界に根深く浸透していった。
国家による暗黙の下、T教団はキリスト教の外皮と呪術的手法により、日本社会を広く深く浸食していった。


264 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:26:44 ID:???0
当初から、日本の宗教界・呪術界はT教団を危険視していた。
韓国政府とキリスト教系宗教団体であるT教団が、ユダヤ・キリスト教『汎世界エスタブリッシュメント』と深く結び付いていたからだ。
T教団の使命は反共工作活動と同時に、宗教と言う『麻薬』により、彼らの支配の障害となる、各国の愛国者を骨抜きにする事にあったのだ。
そして、『皇室』を頂点として強力な霊力・呪力を有し、壊滅的敗戦によっても彼らに併呑されない日本と言う『特異国家』に於いては、更にもう一つの使命が与えられていた。
それは、日本の宗教界・呪術界に浸透し、日本民族の精神世界を破壊・荒廃させ、日本国の霊力・呪力を破壊することだった。
そもそも、T教団の『日本は悪魔の国、天皇・皇室はサタンの化身、日本民族は朝鮮民族に奉仕する奴隷・・・』等といった教義は、それ自体が日本と言う民族国家に対する呪詛そのものと言える。
『子』である日本人自身に日本の神々を誹謗させ、日本民族が受け継いできた精神世界を否定させる・・・T教団の教義に多くの日本人を帰依させることは、何よりも強烈な呪詛なのだ。
敗戦後の神道指令や新憲法下の宗教制度などにより、世俗的な力を奪われた日本の伝統宗教界に、T教団のような『侵略的カルト』に対する抵抗力は残されていなかった。
政界・財界・警察などの力をバックに持ったT教団とその信徒、彼らの走狗である在日韓国人たちが日本の宗教界に浸透し、跋扈するようになった。
彼らの浸透した教団の殆どが、下劣な世俗的欲望に支配されたカルト教団へと成り下がっていった。
程度の差こそあるが、日本の宗教団体・・・信徒数1000人を越える規模の教団で、T教団の浸透を受けていない教団はほぼ皆無と言う事らしい。
前述のS教団もT教団の浸透を受け、乗っ取られてカルト教団へと堕落した数多の教団の一つに過ぎないのだ。
T教団は、多種多様な下部組織やダミー団体を使って、大学のキャンパスや企業、官公庁などで形振り構わない信者獲得を図った。
社会的軋轢や批判を敢えて受けながら広範囲の人材を漁ったのには、もちろん、資金源や世俗的な影響力確保の意味合いもあった。
だが、それと同時に、霊力の平均値が高い日本人にあって、特に霊力・呪力の強い人物を探し出す事も重要な目的だったのだ。
T教団は、日本の宗教・呪術組織の何処よりも、広範囲に『能力者』の情報を収集・保有している組織だということだ。
霊感商法と並んでT教団を有名にした社会問題に、信徒女性を韓国に渡航させての『合同結婚式』がある。
この人身売買も疑われる『結婚式』に参加して、韓国で行方不明になった日本人女性は7000人に及ぶという。


265 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:28:27 ID:???0
なぜ、女性が狙われるのか?
それは、遺伝的に霊能力を集積・定着し、次の血脈に伝えるのは女性に他ならないからだ。
強い霊力を持つ日本女性の血に、朝鮮の呪術の血を注ぎ、より強力な呪術の血を作り出す事が目的だと言うのだ。
理由は定かではないが、日韓(朝)の『能力者』同士の混血は、同民族同士の場合よりも、非常に強力な『能力者』を生み出すらしい。
古くからの呪術や霊能の家に生まれた『能力者』は保護されており、各々の家や所属する組織によって能力をコントロールする術を学んでいるので左程問題はない。
だが、突然変異的に強い霊能力や呪術的な力を持って生まれてしまった者は、その力が強ければ強いほど、通常の日常生活や社会生活が困難になる。
そのような人物を力を削ぎ落とされた日本の呪術・宗教組織が逸早く発見して把握・保護する事は、都市化や地縁社会の解体された現在では非常に困難となっている。
かかる状況下で放置された能力者が、救いを装うカルトに絡め取られる事例は少なくない。
自らの能力に苦しめられた能力者が、居場所と庇護を与えられ、自己の存在価値を認められることによって教祖と教団に依存し、帰依してしまうのだ。
如何わしいカルト教団の中に強力な能力者が散見されるのは、このような事情によるらしい。
韓国で行方不明になった日本女性の中には、こうした『突然変異的能力者』が数多く含まれていると見られている。
また、日本国内の呪術・宗教組織が『能力者』或いは『潜在的能力者』として把握、監視していた人物も含まれていると言う事だ。

T教団には、韓国内の数多くの呪術師や霊能者が幹部、或いは協力者として加わっている。
むしろ、呪術団体としてのT教団の運営者は、『汎世界エスタブリッシュメント』の走狗である彼らだと言った方が正確なようだ。
同胞である韓国人を犠牲にすることも厭わない彼らに反抗して消された韓国人呪術師は多く、日本やその他の外国に逃れた者も少なくない。
日本の呪術団体に所属し、日本の為に働いている韓国人呪術師は多い。
韓国の呪術界から『チンイルバ』として指弾される彼らには、『エスタブリッシュメント』の走狗となって同胞を生贄にする事を厭わない者達に反抗し、祖国を追われた者も少なくないのだ。


266 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:29:39 ID:???0
追われる立場となった榊がT教団の下に走ったのはある意味、必然だったのだろう。
いや、経緯を監視していたT教団の方から榊に接触した可能性もあった。
シンさん達の呪術グループは、裏切り者であり、強力な『呪殺』の術と力を持った榊を放置する事は出来なかった。
キムさんとマサさんは、ある呪法に加わって、師匠である榊に呪詛を仕掛けた。
強力な呪術の血を引き、卓越した呪術の力を持つ榊も、強力な呪力の『源泉』を持つマサさん達には勝てず命を落とした。
榊が死んで直ぐに、T教団とシンさん達の間で手打ちが行われた。
詳細は判らないが、T教団は千津子の呪力を封印し今後一切、呪詛を行わせない事。
シンさん達のグループは、千津子やT教団の幹部に呪詛を仕掛けない事が取り決められたらしい。
千津子はT教団の手により保護された。
だが、直ぐにとんでもない事実が明らかになった。
千津子が妊娠している事が判ったのだ。
千津子はある強力な呪術の血を受け継ぐ女だった。
そこに榊の強力な呪術の血が加わったのだ。
千津子の呪術の血は、ある特殊な由来を持つ血脈に属していた。
この上なく危険な呪術の『血』が、最も危険な団体の手に落ちたのだ。
シンさん達は、千津子と彼女の娘を監視し続ける事になった。


267 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:31:00 ID:???0
奈津子は小学校に上がるまでは、多少の知恵遅れはあったものの、普通の子供だった。
だが、彼女の『能力』の萌芽は凄まじかった。
知能の遅れや動作の遅さ、貧しい身なり等の為か、奈津子は悪童達のいじめのターゲットにされていたようだ。
だが、奈津子は悪童達のいじめや、級友たちの無視にあっても泣かず、いつもニコニコしているような子だったらしい。
ある時、奈津子の通っていた小学校で学芸会が行われた。
クラス全員が体育館のステージに上がって合唱を行う予定だったらしい。
この日の為に、千津子はアパートの大家に手伝って貰いながら、奈津子の為に白いワンピースを縫い上げたそうだ。
奈津子はこのワンピースを着る日を楽しみにしていたようだ。
学芸会の当日、奈津子は千津子に手を引かれて学校へ向った。
親子が学校の正門に続く坂道を上っているときに事件は起きた。
石垣の上に待ち伏せていた悪童達が、親子にバケツで泥水を掛けたそうだ。
奈津子の白いワンピースは悪臭を放つドブの汚水に染まった。
この時ばかりは奈津子も大泣きし、そんな娘の姿を見た千津子も泣いたということだ。
アパートの大家は千津子を連れて学校に猛抗議した。
だが、校長と担任教師は悪童の味方をし、悪童の親の一人はかなり侮辱的な言葉を千津子と大家に吐いたようだ。
大家と千津子の涙を見た奈津子は、唖のように黙り込んで外界に反応を示さなくなり、2週間ほど学校を休んだ。
奈津子が自閉していた2週間の間、悲劇が連続して起こった。


268 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:33:12 ID:???0
奈津子の通っていた小学校では、普段、『登校班』を組んで持ち回りで保護者が子供達を校門まで引率していた。
そんな『登校班』の列に暴走した乗用車が突っ込んだ。
事故は、当時頻発していたAT車の操作ミスによる暴走事故の一例として、報道もされたようだ。
車が大破するほどの事故だったのにも拘らず、突っ込まれた登校班で死亡したのは3人だけだった。
奈津子に泥水を掛けた男子児童2人と、暴言を吐いた母親だった。
更に、奈津子のクラスの児童が次々と謎の高熱を発して倒れ、一人の児童が死んだ。
いつも奈津子に意地悪をする中心となっていた女子児童だった。
事故のためか、『何か』に脅かされた為かは判らないが、女児が死んで直ぐに校長が奈津子のアパートを訪れ、千津子に謝罪した。
だが、翌日から校長は学校を欠勤し、2日後自宅で首を攣っているのを家族に発見された。
校長が死んで直ぐに奈津子のクラスメイトの高熱は下がった。
後遺症の残った児童もいたようだ。
自閉から回復し、再び登校し始めた奈津子を見る周囲の目は一転した。
奈津子は恐怖の対象となっていった。
いつもニコニコして、感情の起伏のない奈津子だったが、一度感情に火がつくと彼女の周囲では死が相次いだ。
千津子が『力』のコントロールを教えたのか、中学の特殊学級を卒業すると奈津子の身辺での変死は起こらなくなった。
だが、レポートに並ぶ数々の変死の実例から、拉致の強行は余りに危険で不可能に思えた。
俺は偽名を名乗って、奈津子の住むアパートに入居した。


269 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:34:55 ID:???0
アパートに入居した俺は、住人による監視の目に晒されていた。
彼らの視線に気付かない振りをしながら、俺はまず、住民の中に溶け込む事に集中した。
やがて、俺に注がれる警戒の視線は弱まり、半田親子との接触も増えていった。
住民と半田親子を観察していて気付いた事があった。
大家を始め、このアパートの住人は、一癖も二癖もある連中ばかりだった。
半田親子が彼らの監視・保護下にあるのは間違いなかった。
しかし、そんな住民達の奈津子へ向ける視線は監視と言うには少々違和感のあるものだった。
教団の指令?や奈津子の『力』への恐怖ではなく、彼女は住民に愛されていたのだ。
奈津子は、立振舞いが少々幼く、言葉も上手くはなかったが、澄んだ目をした女だった。
ありがちな容貌上の『歪み』もなく、見た目は魅力的で健康な普通の女であり、一目見ただけは精神の遅滞など感じられなかった。
人懐っこい無邪気な彼女の笑顔は、人の気持ちを安らがせる不思議な魅力があった。
母親の千津子もそうだったが、この親子の柔らかい雰囲気は人を癒す不思議な力があった。
溶け込んでみると、このアパートには奈津子を中心に居心地の良い幸せな空間が形作られていたのがわかった。
半田親子には、『呪殺』を生業にした恐るべき呪術者の血筋である事、多くの人を死に至らしめた『能力者』の片鱗も見られなかった。
俺自身が奈津子に癒され、当初の目的を忘れかけていた。


270 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:35:57 ID:???0
入居して直ぐに、俺は、サポート役との接触の足として、中古のGB250を手に入れた。
ある日、アパートの前でバイクの整備をしていると、いつの間にか奈津子が近くにしゃがみ込んで、興味深そうに俺の作業を見守っていた。
工具を操る俺の手の動きを目をくりくりさせながら追う様子が愛らしい。
整備が終わった所でキーを挿し、セルを回してエンジンを始動させると、奈津子は「おおっ」と言って手を叩いて喜んだ。
俺は奈津子に「乗ってみるかい?」と声を掛けた。
奈津子は、首を傾げてちょっと考え込むと「うん!」と答えた。
俺は「ちょっと待ってな」と言って、部屋から紫のサテンに鳳凰の刺繍が縫い込まれたスカジャンとヘルメットを持ってきた。
痩せて小柄な奈津子には両方とも大きすぎたようだ。
奈津子の細い肩から上着がずり落ちそうだ。
ヘルメットはどうしようもないので、頭にタオルを巻かせ、アパートの廊下に転がっていたドカヘルを被せて俺達は出発した。
バイクに乗せてから、奈津子は急速に俺に懐いていった。
時々奈津子を後ろに乗せて、走りに出るのが俺にとっても楽しい時間になっていた。
俺は奈津子用のヘルメットを買い与え、紫のサテンの色が気に入ったらしい奈津子にスカジャンも与えた。
奈津子はバイクに乗るとき以外も、サイズの合わないだぶだぶの上着を着て歩くようになった。
こうして、俺は、半田親子の中に入り込むことに成功した。


271 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:37:41 ID:???0
奈津子が俺に懐くようになって、他の住民たちとの関係も急速に好転した。
だが、同時に異変も起き始めていた。
深夜、時々『怪現象』が起こるようになってきたのだ。
電化製品の誤作動や停電、人が近づくまで鳴り止まないピンク電話・・・
金縛りにあった俺は、女のすすり泣く声を聞いた。頭の中に響いてきたその声は、奈津子の声だった。
どうやら、他の住民達も、形や程度は様々だが、各々『怪現象』に見舞われていたようだ。
耐えられずにアパートを出て行った者もいた。
だが、古株の住人達は慣れていたらしく、慌てる者は居なかった。
深夜の怪現象にも拘らず、昼間の奈津子は、いつもと変わらずニコニコと笑顔を振りまいていた。
やがて、怪現象の原因が判ってきた。
現象が起こるのは、決まって、ある男が半田家に立ち寄った日だった。
この男こそが、奈津子に韓国での結婚話をしきりに勧めていた飯山という教団幹部だった。
飯山は強い調子で半田親子に奈津子の結婚を迫っていたようだ。
大家が間に入って親子を庇っていたようだが、教団に庇護されて生活する身で、これ以上の抵抗は不可能だった。
飯山の訪問の頻度が上がるにつれて、半田親子は心労のためか暗い表情を見せるようになった。
俺は奈津子をバイクに乗せて、近くの川まで花見に連れ出した。
同じアパートの住民の男が開いている露店でタコヤキを買って、露店のベンチで食べながら俺は奈津子に言った。
「なあ、なっちゃん。嫌な事は嫌だと言わないと判って貰えないよ?
俺もアパートのみんなも、大家のおばさんだって、皆なっちゃんの味方だよ」
露店の親父もうなづいている。
「自分の気持ち、正直にあのオッサンに言ってみなよ。そうしないと、いつまでも終わらないよ?」


272 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:38:36 ID:???0
数日後、飯山が半田家を訪れた。
俺は室内の様子を伺いながら、踏み込むチャンスを待った。
やがて、飯山の怒声と奈津子の泣声が聞こえて来た。
俺は、部屋に踏み込んだ。
「何だ、君は!」
「その親子の友人だ。アンタいい加減にしろよ?この親子がアンタの持ち込んだ結婚話を嫌がって拒否してるのが判らないのか?」
「信仰上の問題だ。我々には信教の自由が保障されている。部外者の口出しは遠慮してもらいたい」
「憲法20条1項ってやつだな」
「判ってるじゃないか」
「だが、憲法は24条1項でこうも言っている。婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するってな」
「・・・」
「この親子はアンタの持ち込んだ結婚話を嫌がっている。アンタ達の合同結婚式は社会問題にもなっているよな?
知的障害を抱えた親子を、その意思に反して引き裂こうと言うアンタ達の行いは、被害対策弁護団やマスコミのいいネタだろうな」
「・・・」
「この親子から手を引けよ。それがアンタの地位と教団の名誉を守る最善の道だ。これ以上無茶を言うなら出る所に出るぞ?」
しばしのやり取りの後、飯山は怒りに煮え滾った視線を俺に向け、親子に「悪いようにはしないから、もう一度よく考えなさい。また来る」と言って出て行った。
 
部屋の片隅で、涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした奈津子が肩を震わせていた。
俺が奈津子の頭を撫でながら、「あのオッサンに嫌だと言ったんだな?よく言えたな、偉いぞ!」と声を掛けると、奈津子は俺の胸に抱きついてきて、声を上げて泣き出した。


273 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:40:33 ID:???0
それから数日間は、飯山も姿を見せず、平穏な日々が続いた。
だが、このまま平穏無事に事態が終息するとは思えない。
俺は警戒を強め、計画の実行の機会を探っていた。
そんな時に、サポート役の男から『緊急事態が発生した。早急に接触したい』連絡が入った。
バイクを引っ張り出してエンジンを掛けようとすると奈津子が玄関から出てきてきた。
俺が「悪いな、これから用事があるんだ。また今度な?」と言うと、
奈津子は首を振りながら「お姉ちゃんが、行っちゃダメだって言ってる。行かないで」と言う。
だが、俺は「ごめんな」と答えて出発した。
奈津子の言葉が気にならないではなかった。
だが、奈津子の言う「お姉ちゃんを」アパート住民の水商売の女性と誤解し、彼女が飯山の再訪を警戒して言ったのだと俺は思い込んでいた。
俺の留守中の守りは、タコヤキ屋の男に任せてあった。この男は教団信者でもなく、信用できる男だった。
少なくとも、サポート役として派遣されてきている男よりは信用していた。
俺は指定された場所へとバイクを飛ばした。

サポート役として派遣されてきていた男は佐久間と言う日本人だった。
シンさんの配下ではなく、木島の関係者だった。
話をしていて、この男が、韓国人でありながら組織で重要な地位を占めるシンさん達に良い感情を持っていないことが判った。
また、呪術や霊能といった『能力者家系』ではなく、一般家庭の出身である俺を見下していることも肌で感じられた。
俺は、佐久間を信用できず、最悪、フォローなしの単独での計画実行を覚悟していた。
だが、強攻策に出れば半田親子がどんな反応を示すかわからず、シンさんに渡された拳銃を使用するような事態は絶対に避けたかったので、正直、手詰まりの状態でもあった。
 
40分ほどバイクを走らせると、俺は指定場所に到着した。


274 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:41:34 ID:???0
デイマースイッチでライトを点滅させると、前方のセダンから3人の男が出てきた。
一人は佐久間、後の二人は知らない顔だった。
一人はガタイも良く、荒事にも慣れていそうな雰囲気だった。
もう一人は初老の男性で、体躯は貧弱だが、狡賢そうな油断できない雰囲気を漂わせていた。
俺は佐久間に「緊急事態とは何だ?この二人は何者だ?」と語尾を強めて尋ねた。
すると、初老の男が口を開いた。
「金子さん・・・いや、・・・さんでしたね。あなた方の計画は佐久間さんから聞いて、貴方があのアパートに入居する前から知っていました」
「佐久間、テメェ・・・」
「お怒りはごもっとも。しかしですね、佐久間さんも、あなたも、あの韓国人たちに『拉致』なんて汚い仕事を押し付けられた訳ですしね。
韓国人の手先となって、日本人のあなた方が同じ日本人である半田奈津子さんの拉致に手を染める事に良心の呵責はありませんか?」
「・・・」正直、痛い所を突かれて俺は沈黙した。
「我々は半田さん親子をこれまでもお世話して来ましたし、これからもお世話し続けるつもりです。
奈津子さんの結婚話も、先方は奈津子さんを大変気に入っておりまして、お母様の千津子さんも韓国に呼び寄せて面倒を見たいとおっしゃっています。
このまま日本にいて、あなた方の下に行ったからといって、あの親子が幸せになれる保障は、失礼ながら無いと思いますが?
配偶者を得て子供を生む・・・女性なら誰でも望む当たり前の幸せを、私どもの許を離れた奈津子さんが得られる可能性は低いのではないでしょうか?」
この男の言葉は、俺がこの仕事を請ける以前から葛藤してきた事、そのものだった。
俺の心は揺れた。


275 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:42:29 ID:???0
そんな俺の迷いを突く様に男は言葉を続けた。
「任務を放棄すれば彼らの事だ、奈津子さんのお父様の榊氏のように、あなた方の組織は貴方や佐久間さんを消しに掛かるでしょう。
しかし、ご心配ありません。
我々も強力な呪術師や霊能者を多数抱えておりますし、あなた方の組織と交渉して半田千津子さんの時と同様に『不可侵条約』を結ぶ事も可能です」
俺は黙って男の言葉を聞いた。
反論しない俺の様子に満足したのか、更に男は言葉を続けた。
「佐久間さんは何代も続く立派な祈祷師の家系のご出身です。
あなたも、これまでの仕事振りから、相当な素質の持ち主だと思われます。
しかし、あなた方の組織は、あの韓国人たちに牛耳られて、日本人のあなた方は不当に軽んじられているのではないですか?
佐久間さんは立派な血筋なのに正式な祈祷師・呪術師の地位を認められてはいませんし、貴方はキム氏の会社の従業員扱い。
危ない仕事に数多く関わられているのに、『組織』の正式メンバーですらないですよね?
失礼ながら、正当な評価とは思えません。
もし我々に力添えしていただけるのであれば、正当な地位と報酬を約束させていただきます。
貴方の才能を伸ばすべく、『修行』のお手伝いもさせていただけると思います。
佐久間さんからは快諾を頂いております。貴方も是非に!」


276 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:43:14 ID:???0
男の言葉には納得できなかったが、反論の言葉も見つからなかった。
そんな俺の脳裏に『行ってはダメ』と言う奈津子の言葉と、何故かアリサの顔が浮かんだ。
俺は迷いを払って言った。
「俺は別に拝み屋になりたいとも、組織で地位を築きたいとも思っていないんでね。
まあ、給料やギャラは、タンマリ貰えれば文句は無いが、見境無く餌に飛びつく犬は毒を喰らって早死にしかねないからな。
俺は彼らに対して恩義がある。これは俺の信義の問題だ。
例え飢えたからといって、信義に反して他人から餌を貰うつもりは無い。
他人を裏切って自分の下に来た人間を俺は信用しないし、信用されるとも思えないしな。
あんたの言葉はもっともらしく聞こえるが、日本人の俺には、日本を悪魔の国、日本人を韓国人に奉仕する奴隷と看做すアンタ達の教義には帰依も賛同も出来ない。
日本人でありながら、あの教義に賛同し帰依できるアンタ達も理解できない。
俺はこの仕事で、あの親子と縁を持った。
韓国へ渡って行方不明になった日本人女性がどうなったか判らない以上、あの親子を韓国に行かせるつもりは無い。交渉は決裂だ」 
「残念ですね。でも、あの親子は飯山さん達がもう連れ出しているでしょうから、あなたには手遅れだと思いますよ」
俺はジャケットをめくり、ウエストバッグから拳銃を取り出して言った。
「お前ら、フェンスを乗り越えて向こうの倉庫のステージまで行け。おかしな真似をしたらコイツをぶっ放す。
佐久間、車のキーをこっちに投げろ。さあ、早くするんだ」
佐久間がセダンからキーを抜いて俺の方に投げると、3人は2mほどの高さのフェンスをよじ登って向こう側に下りた。
俺は、3人が十分に離れたのを見計らってセダンに乗り込み、アパートへ向った。


277 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:45:13 ID:???0
アパートに着くと、白いミニバンと見覚えのある四駆が停まっていた。
俺は車を降りてアパートの中に入った。
アパートの中は騒然としていた。
靴も脱がずに上がり込んで、2階にある半田家の部屋に向った。
部屋の前に見覚えの無い若い男が、魂を抜かれたように呆然と立っていた。
部屋からは異様な空気が漂っていた。
中に入ると台所の流しを背にして誰かいた。
マサさんだった。
脂汗をびっしょりとかいて、立っているのがやっとといった様子だった。
極度の集中状態で俺にまるで気付いていない様子だった。
奥の部屋には飯山と奈津子が倒れていて、マサさんの視線の先には千津子が仁王立ちしていた。
トランス状態とでも言うのだろうか?
異様な殺気を双眸から発して、千津子はマサさんを睨み付けていた。
だが、俺が部屋に入ったことで二人の均衡状態が破れたらしい。
マサさんが胸を抑えて苦しみだした。
「チズさん、いけない!」そう言って、俺は慌てて千津子に駆け寄って肩を揺すった。
千津子の目が肩を掴む俺にギロリと向いた。その視線に俺の背筋は凍りついた。
そして、千津子は白目を剥いて倒れた。


278 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:47:32 ID:???0
千津子が意識を失うと、台所でマサさんがズルズルと崩れ落ちた。
クソッ、どうなっていやがるんだ!
奈津子と共に室内に倒れている飯山は、赤黒い顔色で泡を吹いて意識がない状態だった。
奈津子と千津子の何れかは判らないが、親子を無理やり連れ出そうとして、彼女達の『力』で殺られたのか?
混乱する俺に、マサさんが肩で息をしながら言った。
「おい、シンさんから預かった拳銃を持っているな?もう、俺の手には負えない。
その子が目を覚ます前に撃て!」
「ば、馬鹿言ってんじゃねえよ!そんな事、出来るわけねえだろ!」
「いいから、さっさとやれウスノロが!説明している暇はないんだよ!どけ!」
マサさんはフラフラと立ち上がった。
マサさんの右手には俺のと同じ型の拳銃が握られていた。マサさんの銃口が奈津子に向く。
俺はマサさんと奈津子の間に立って拳銃を抜いた。
マサさんに銃口を向けて「アンタらしくないな・・・何故なんだ?」と問いかけた。
「バカヤロウ・・・甘いんだよお前は!クソッ、もう、手遅れだ・・・」そう言うとマサさんの膝がカクッと折れた。
マサさんが崩れ落ちるのと同時に、背後からゾワゾワッと悪寒が走った。
倒れていた奈津子が上体を起してマサさんを睨み付けていた。
俺は慌てて、奈津子の肩を掴んで激しく揺すった。
「ダメだ、なっちゃん!止すんだ!」そう言った瞬間、奈津子の目が俺を睨み付けた。
奈津子に睨み付けられた瞬間、俺の全身に電撃のような痛みが走った。


279 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:49:05 ID:???0
俺の胸は心臓を握り潰されたような激しい痛みに襲われ、全身の血が沸騰したかのようだった。
これが奈津子の力なのか?
呪殺者の血脈、多くの人間を死に至らしめてきた力か?
シンさんやキムさん、そしてマサさんが恐れるのは無理も無い。。。
あんなに優しくていい娘なのに、こんな力を持ったばかりに・・・不憫な・・・
ブラックアウトしかけた俺の視界に、奈津子の色の薄い柔らかそうな唇が映った。
何を考えてそうしたのかは覚えていないが、俺は最後の力を振り絞って奈津子と唇を合わせ、強く抱きしめた。
クソッタレ・・・目の前が真っ暗になって、意識が途絶えた。

女の泣き声と、男の「もう大丈夫だ」と言う声で俺は目を覚ました。
心配顔の千津子と涙でベソベソになった奈津子が俺の顔を覗き込んでいた。
「まだ動くな。調息して気を一回ししろ。それから、末端からゆっくりと『縛り』を解くんだ。できるだけゆっくりとな」
声の主は木島だった。
1時間ほど掛けて、俺はようやく起き上がることが出来た。
マサさんの処置は見知らぬ老人が行っていた。
・・・助かったのか・・・何故?
応援がやってきて、俺達はアパートを後にした。


280 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:50:57 ID:???0
木島の運転するマサさんの車に俺は揺られていた。
助手席にマサさん、後部座席に千津子と奈津子、そして俺。
二人は『力』を放出し切ったせいか、泥のように眠り込んでいた。
眠り込んではいたが、奈津子は俺の手を離そうとしなかった。
俺は目を閉じて、調息と滞った気の循環を行っていた。
そんな俺に、マサさんが、いかにもダルそうな声で話しかけて来た。
「お前、あの時、本気で撃つ気だっただろう?酷い奴だ・・・」
「二人はこれからどうなるんですか?事と次第によっては、今度は迷わず撃ちますよ?」
木島が口を挟んだ。
「そうカッカするなよ。二人は『力』を封じた上でマサの『祓い』を施して、ある人物の元で丁重に保護する」
「ある人物?」
「榊さんだ。この娘の祖父に当たる人だ。さっき、マサに処置を施していた爺さんだよ」
俺は絶句した。


281 :天使 ◆cmuuOjbHnQ:2009/04/30(木) 04:52:26 ID:???0
「しかし、よくもまあ、二人とも助かったものだ」木島の言葉にマサさんが続けた。
「まったくだ。良く、あんな状況であんな手を思いつくものだ。あんなことはしないだろう、普通?」
「・・・」
「あれで、その娘の毒気はすっかり抜け落ちてしまったからな。
木島が駆け付けた時、この娘、お前にすがり付いて、わんわん泣いていたらしいぞ」
「いい泣きっぷりだったよ。しかし、まあ、後が大変だな」
「なにが?」
「乙女の唇wを奪ったんだ、高くつくぞ?この娘にとっては初めてだったろうしな。
純粋で真っ白な娘だ。面倒な事になりそうだなw」
「自業自得だ。自分のやったことの責任は自分で取るんだな。俺は知らねぇw」
マサさんがそう言うと、奈津子が寝返りを打って、俺の方に身体を委ねてきた。

穏やかな寝息を立てる奈津子の寝顔は天使そのものだった。
 
 
おわり


296 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:13:14 ID:???0
半田親子が榊家に保護されてから3ヵ月後、マサさんの回復を待って、千津子と奈津子に対する『処置』が行われた。
処置を行ったのは木島とマサさん、そして、以前、ヨガスクールの事件を持ち込んできたキムさんの知り合いの女霊能者だった。
彼女は以前にも『能力』を悪用していたヨガスクール関係者の『力』を封印していた。
そういった力なり技の持ち主なのだろう。
二人の『処置』は成功裡に終わったらしい。
俺は、シンさんの許を訪れる、木島の迎えに出ていた。
駅を出てきた木島は、迎えの車に乗り込むと、俺宛の紙包みを車中で渡した。
中には藍の絞り染めのバンダナが数枚と、2通の手紙が入っていた。
バンダナは、奈津子が祖母の榊夫人と共に染めたものらしい。
額の刃物傷や頭の手術痕、アスファルトで削られた頭皮の傷痕を隠す為に、俺が頭にバンダナを巻いていたのを覚えていたようだ。
手紙は千津子と奈津子からだった。
たどたどしい文字だったが、読み書きが殆ど出来なかった親子の知能は『処置』後、急速に伸びているようだ。
もともと、二人はアパートの大家の熱心な教育?の効果もあってか、日常生活をほぼ支障なく送れるレベルにはあったのだ。
俺は木島に「二人は元気にしているのか?」と尋ねた。
「ああ。榊夫妻が猫可愛がりしてるよ。榊の爺さんは、もう、目に入れても痛くないって感じだな。
偶には会いに行ってやってくれ。お前が行けば二人が、それに榊夫妻も喜ぶ」
「なあ、あの仕事、シンさんは何故俺を選んだんだ?」


297 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:14:05 ID:???0
やや間を置いて木島が答えた。
「シン先生は、組織内で微妙な立場に在るんだ。韓国人でありながら強い影響力を持っていて、組織でも高い地位にいるからな。
キムやマサは、シン先生の指示にしか従わないしな。
能力第一で、血筋や家柄なんて二の次、三の次の俺達の業界でも、逆恨みや、やっかみは跡を絶たないのさ。
特に、毛並みだけは良いが力のない、佐久間のような連中にとっては、シン先生達は目障りな存在なんだ。
奴らにとっての拠り所でもある、毛並みも力も備えた『名門』、榊家の次期当主を消した韓国人のシン先生達への恨みは実に根深いものがあるんだよ。
それに、組織の当初の方針に反して千津子を消さなかったのは、シン先生の強力な働き掛けがあったからだしな。
頭の古い連中に角を立てずに処理するには、非メンバーで日本人のお前が何かと好都合だったのさ。
お陰で、以前から怪しい動きをしていた佐久間や他の鼠を駆除できた。助かったよ」
「全て仕組まれていたって訳か・・・本当にそれだけか?」
「・・・否。
・・・お前は、死んだ榊先生に良く似ているんだ。顔や雰囲気、どうしようもない甘さ加減までな。
あの親子の『力』はちょっと厄介でね。一旦発動すると歯止めが利かないし、彼女達自身がコントロールできる類のものでもないんだ。
・・・死んだ旦那や、会ったことはないが父親にそっくりなお前なら、少しでも成功の可能性が高くなると踏んだのだろう。
実際、あの親子は、お前には心を開いていたからな。かなり際どかったけどな」
「T教団や飯山達は?」
「T教団とは手打ちをした。奴らがあの親子に手を出す事は今後一切ない。
奈津子にやられた飯山は、榊の爺さんの処置で何とか命だけは取り留めたが、寝たきりでアーとかウーとしか言えなくなっちまったよ。
奴らも、あの親子の『力』の恐ろしさが骨身に沁みたらしい。とても飼い慣らせるものじゃないと悟ったのだろうさ」
 
やがて、俺達の車はシンさんの自宅に到着した。


298 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:15:06 ID:???0
木島とシンさんたちの打ち合わせが終わると俺は応接室に呼ばれた。
俺と入れ違いに木島が部屋を出て行った。
「近い内に遊びに来い。榊さんやあの親子以外にも、お前に逢いたがっている人がいるんだ。一席設けるから一杯やろう」
俺の肩を叩きながら、そう言って、木島はシンさん宅を後にした。

木島が出て行くと、シンさんが「掛けなさい」と俺に席を勧めた。
テーブルを挟んでキムさんの正面の席に俺は座った。
席に着くとシンさんが口を開いた。
「汚くて危険な仕事を押し付けてしまって、君には本当に済まない事をしたと思っている。
しかし、君がいなければ恐らくあの親子を救う事は出来なかっただろうし、手の付けられない重大な事態が起っていただろう。
マサも、その後に到着した木島君や榊さんも、あの親子の力を止める事は出来なかっただろうからね」
「そうなんですか?」
「ああ。あの親子の恐ろしい力は、身を以って体験しただろう?
あのマサですら、千津子一人の力を受けきれずに命を落としかけたんだ。
お前の機転で奈津子が止まらなければ、あの場にいた者は全員命を落としていただろう」とキムさんが答えた。
「私は、あの親子をどうしても救いたかった。キムやマサ、木島君もね。
しかし、あの親子の力は危険すぎた。7割、いや8割くらいの確率で、最悪の方法を採らざる得ないだろうと覚悟していた」


299 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:15:50 ID:???0
「それほどにまでに・・・」
「ああ」
「あの親子の力って何なんですか?
あの親子は人に呪詛を仕掛けるタマではないし、あの力の発現は一種の『自己防衛』だったように思えるのですが?
それに、あんな危ない橋を渡ってまで、あなたやキムさん、マサさんや木島さんがあの親子に固執した理由も知りたい」
シンさんは俺を制して言った。
長い話になる。一杯やりながら話そう。そう言うと、若い者に酒を運ばせた。酒は自家製のマッコリだった。
大した強さでもないその酒を2・3杯飲んだシンさんは、
「すっかり酔っ払ってしまった」と言い、「これから話す事は年寄りの世迷言だと思って聞き流して欲しい」と言って昔話を始めた。
シンさんの昔話・・・それは、心ならずも呪術の世界に足を踏み入れて、人生を狂わせた男の話だった。
  
30数年前、宋 昌成(ソン チャンソン)と宋 昌浩(ソン チャンホ)と言う在日朝鮮人の親子がいた。
息子の昌浩は優秀な男で、周囲から将来を嘱望されていたらしい。
父・昌成は息子をC大学校に進学させ民族学校の教員、或いは民族団体の活動家にしようと考えていたようだ。
実際、その方面からの勧誘も盛んだったらしい。
だが、昌浩は日本の大学に進学する事を希望しており、進路を巡って父親と激しく衝突した。
昌浩は勘当状態となり、単身上京。
兄の友人が経営する会社で働きながら、勤労学生として大学に通っていたと言う事だ。

ある時、昌浩は、取引先で、ある女と偶然に出会った。
郷里にいた頃、学校の近辺の図書館や学習室でよく見かけた女だった。
その女、『美鈴』にとって昌浩は見覚えのある顔に過ぎなかったようだ。
だが、昌浩にとって美鈴は密かに憧れた『忘れられない女』だった。
始め、『美鈴』は同郷の昌浩を警戒し、彼を避けていた。
美鈴は郷里のある被差別部落の出身者だった。
また、詳しい事は話さなかったが、人の手を借りて家族の元から出奔してきていたらしい。
美鈴は自分の出自だけではなく、同郷の昌浩を通じて郷里の家族に自分の居所を知られる事を極度に恐れていたのだ。
昌浩は自分の在日朝鮮人の出自を明かして「くだらない」と一笑した。
また、自身も父親と衝突して勘当の身であり、郷里には戻れない立場である事を明かした。
二人は交際するようになり、やがて同棲を始めた。
そして、美鈴が懐妊し、その腹が目立ち始めた頃に事件は起こった。


300 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:16:28 ID:???0
美鈴が懐妊して直ぐに、二人はある男に付き纏われるようになった。
男は美鈴の兄だった。
家族に居所を知られると言う、美鈴の恐れていた事態に陥ったのだ。
だが、昌浩は、美鈴の懐妊と言う『既成事実』から事態を楽観視していた。
美鈴の兄の付き纏いは執拗だったが、同じアパートに住む職場の仲間の協力で美鈴に兄の手が及ぶ事はなかった。
しかし、そんなある日、事件は起こった。
その日は、地元の祭りで昌浩やアパート住民の男達は出払っていた。
女達も食事の世話などで出ていたが、身重で朝から体調のすぐれなかった美鈴は部屋で寝ていたらしい。
このような機会を狙っていたのであろう。美鈴の兄がアパートに侵入し、美鈴を連れ出そうとした。
兄は抵抗する美鈴に激しい暴行を加えた。その現場に祭りを抜け出して美鈴の様子を見に戻った昌浩が出くわしたのだ。
美鈴の兄と昌浩は激しく争い、騒ぎに気付いた他の住民が駆けつけた。
昌浩と争い、揉み合いの中でアイロンで頭を殴打された美鈴の兄は、住民が部屋に踏み込むと鮮血を滴らせたまま、アパート2階の窓から道路へ飛び降り、そのまま走って逃げ去った。

身重の身体に激しい暴行を受けた美鈴は住民達の手によって直ぐに病院に搬送された。
美鈴は流産しており、意識が戻らないまま生死の境を彷徨い続けた。
数日後、病院に泊り込んで、意識の戻らない美鈴の看病を続ける昌浩の下に刑事が現われた。
美鈴の兄が死亡したのだ。
凶器を用いた事、相手を死亡させたことにより、昌浩側の情状は考慮されず、結局、昌浩は3年の実刑を受けた。
昌浩は接見に訪れた弁護士に美鈴の安否を尋ねた。
昌浩の逮捕・拘留中に美鈴は意識を取り戻し、ひとまず命を取り留めた。
やがて裁判が始まり、昌浩は実刑判決を受け収監された。
昌浩は美鈴の身を案じ続けていた。
弁護士の話では、暫くの間は社長夫妻が自宅で美鈴の面倒を見て居た。
だが、結局、姉が美鈴を引き取り、美鈴は郷里に戻ったと言う事だった。
あれ程、家族に見つかって実家に連れ戻される事を怖れていた美鈴が、郷里に戻るとは・・・
美鈴の身を案じつつも、獄中に在って何もできない昌浩は己の無力を呪った。


301 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:17:13 ID:???0
刑期も半分以上が消化された頃、昌浩は毎晩のように悪夢にうなされるようになった。
鬼の形相の美鈴が炎の中に立ち、狂気に見開かれた目で昌浩を睨み付けていたそうだ。
昌浩の身体は日に日に痩せ細っていき、その顔には「死相」が浮かんでいたということだ。
美鈴は家族の元に連れ戻される事を極度に恐れていた。何か只ならぬ事態が美鈴に、そして自分に起こっていることを昌浩は直感した。
そんな昌浩の様子を見て、長年、娑婆と刑務所を出たり入ったりの生活をしていた同房者の男が彼に言ったそうだ。
「兄ちゃん、アンタ、誰かに祟られてるね。
俺は、ムショの中で兄ちゃんみたいなのを何人も見てきたが、みんな年季が明ける前に狂って死んじまった。
人を殺したヤツ、強姦や詐欺、乗っ取り・・・娑婆で他人を地獄に落とした悪党どもが被害者に祟られて死ぬなんてのはよくある話さ。
兄ちゃんが何をしたかは知らないが、お勤めが終われば全てチャラなんて、甘い甘い。
人の裁きと、お天道様の裁きは別物なのさ。
覚悟しておくんだな。
俺たちみたいなのは、碌な死に方は出来ないし、死んでも碌な所には行けないだろうさ」
何故か、昌浩に死の恐怖は無かった。
ただ、一刻も早く出所して、美鈴に会いたい、それだけだった。
美鈴の事で思い悩む彼の出所までの日々は地獄のように長かった。

やがて昌浩は出所の日を迎えた。
昌浩が獄に繋がれている間、塀の外の状況は激変していた。
昌浩の勤めていた会社は倒産し、社長夫婦や同じアパートに住んでいた同僚達もバラバラになって行方が判らなくなっていた。
昌浩は美鈴を探す為に郷里に戻った。
郷里に戻った昌浩は激しい衝撃に襲われた。
昌浩の実家の在った一帯は更地となっていた。
不審火による火事で焼失したと言うことだった。その火事で昌浩の母が亡くなっていた。
近所の住民は更に追い討ちを掛ける事実を昌浩に告げた。
火事が起こる前、昌浩と父・昌成との間に立って昌浩をかばい、何かと力を貸し続けてくれた兄が亡くなっていたのだ。
自動車事故で大破した車の中に閉じ込められた兄は、生きたまま炎に飲み込まれ焼死していた。
そして、父・昌成の行方も判らなくなっていた。
昌浩が服役していた僅か3年足らずの間に、宋家は破滅してしまっていたのだ。
余りの事に打ちのめされた昌浩だったが、当初の目的を果たすため、地元の友人・知人の伝を頼って美鈴の捜索を開始した。


302 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:18:05 ID:???0
高校の同級生や地元の友人を頼って美鈴の過去を探ると、美鈴が話さなかった数々の事実が判った。
美鈴は、出身校の学区から離れた、**部落と呼ばれる被差別部落の出身者だった。
美鈴は実家を離れ、元教師の老夫婦の家に下宿し、そこから学校に通っていた。
美鈴や進学した高校、下宿先には連日嫌がらせが繰り返されたそうだ。
昌浩は美鈴のかつての下宿先を訪れたが、そこは老夫婦が亡くなり空き家となっていた。
昌浩は美鈴の実家があるという**部落を当たってみる事にした。
だが、**部落の名が出た時点で地元の友人達は昌浩の前から皆去って行った。
近辺の同和地区の住民達からさえも**部落は決して近付いてはならないとされる「危険地帯」だったのだ。
宋家は昌浩が中学校に上がる前に逃げてきた朝鮮人の「余所者」に過ぎなかった。
地元での**部落という存在の意味を理解していなかったのだ。
そんな昌浩の前に同和団体の活動家だと言う、日本人の男が現われた。
男は駒井と名乗った。
駒井は「**部落に首を突っ込んでる馬鹿はお前か?
余所者の朝鮮人が・・・他人の土地で勝手な真似をしていると死ぬぞ?」と言って、昌浩をある人物の元に連れて行った。


303 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:18:47 ID:???0
駒井は、活動家時代の宋 昌成の同志だった。
かつて、宋 昌成は住環境が特に劣悪だった同和・在日混住地区における「公営住宅獲得闘争」に身を投じ、多額の資金援助を行った過去をもっていた。
彼は家族や家業を犠牲にして、在日活動家の仲間と共に、某政党の言う所の『日本社会の底辺で苦しむ人民の為の闘争』に身を投じた。
その結果、その地区の公営住宅建設計画が認可され、彼らの説得により戦前からその地区に住み続けていた在日は立ち退きに応じた。
やがて、更地となった土地に真新しい公営住宅が建設された。
だが、地域住民で入居を許されたのは「同和」の日本人だけだった。
「日本人ではない」という理由だけで、共に闘い、立ち退きに応じた在日住民たちは入居を許されなかったのだ。
真新しい公営住宅を目の前に、元の住居を失った在日朝鮮人たちは成す術もなく、そこに入居したかつての隣人である同和の日本人と、立ち退きを勧めて回った昌成達活動家に怨念を向けた。
宋 昌成は、彼に活動資金の拠出を何度も要請してきた某政党や、共に戦った同和団体の活動家に行政側の措置の不当性を強く訴えた。
行政に対する抗議闘争、その地区に住んでいた在日住民の公営住宅入居を認めさせる活動への協力を求めたのだ。
しかし、彼らの答えはNOだった。
昌成は絶望に沈んだ。
立ち退きの説得に回った責任感から、彼は持てる私財を全てつぎ込んで、住家を失った同胞の次の住居の手配に奔走した。
だが、朝鮮人に部屋を貸す家主は同胞の中ですら中々見つからなかった。
度重なる心労や苦労は、平等社会や日韓両民族の和合を信じる理想主義者だった彼を変えた。
日本社会で疎外された在日を守るのは経済力、そして、それを背景とした権力に連なる人脈しかないという考えの持ち主へと変貌した。
彼や在日の仲間を利用するだけ利用して切り捨てた「ペルゲンイ」や「ペクチョン」共、そして、日本社会や日本人に憎悪を燃やすようになって行った。
家業が潰れ破産した宋家は、この地に夜逃げ同然で流れてきたのだ。
家業や家庭を顧みずに昌浩や家族を苦境に陥れたが、理想主義者だった「活動家時代」の父を昌浩は深く尊敬していた。
昌浩の出奔の背景には、変貌した父への反発が大きく作用していたようだ。


304 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:20:08 ID:???0
先の「公営住宅獲得闘争」の折、分断工作に遭って共に戦ってきた在日朝鮮人達が切り捨てられた事に、末端活動家だった駒井達は心を痛めていた。
そんな駒井が、かつての同士であり友人でもあった宋 昌成が「**部落」を探っている事を聞き付けた。
始め「**部落」の事を良く知らなかった駒井は、その危険性を仲間に聞いて、昌成を止めるために、彼の許を訪れた。

宋 昌成は美鈴と美鈴の実家に付いて調べていた。
発端は「お前の息子は、質の悪い女とデキて同棲までしている。面倒が起こる前に別れさせた方が良い」と言うタレコミだった。
宋 昌成は昌浩の兄を通じて、昌浩と美鈴が同棲していることを知っていた。
さらに、昌浩の勤務先の社長から、昌浩の身辺を嗅ぎ回っている連中が居る事も聞き付けていた。
やがてタレコミは「昌浩と美鈴を早く別れさせろ。さもなくば、二人だけではなく、お前の家族にも累が及ぶ事になる」と言う脅迫に変わった。
ここで、昌成は調査会社に依頼して、美鈴と美鈴の背後の調査を開始した。
美鈴が「**部落」という被差別部落出身者であることが直ぐに判った。
だが、被差別部落出身者だからといって、昌成には、昌浩と美鈴の仲を引き裂くつもりは全くなかった。
昌成は、美鈴の妊娠が明らかになると、昌浩には内密に、昌浩の兄を通じて美鈴に当面の生活費まで渡していたのだ。
昌成には某政党と同和団体との遺恨、日本社会や日本人に対する怒りや憎しみがあった。
だが、他方で、そういった『恨』を息子の代まで継続する事は不毛と考えていたようだ。
若い二人には平穏な暮らしを送って欲しい・・・そう願って、**部落に関わってしまったらしい。
 

調べてみると、美鈴の過去は異様な闇に彩られていた。
美鈴には5歳年上の姉がいた。姉の『美冬』はある種の『虐待』を受けていた。
美冬の中学の担任教師と、同和団体の関係者は彼女を救おうと奔走したが、美冬が中学を卒業すると救いの手を差し伸べる手立てを失った。
やがて美鈴が中学に上がり、美冬の担任だった教師は、妹の美鈴の担任となった。
担任教師と件の同和団体関係者は、姉の美冬の強い訴えもあって、中学在学中、家庭訪問を密に行うなど美鈴を監視し続けた。
美鈴は担任教師と同和団体関係者の強い働き掛けにより、中学卒業後、実家から離れた学区の高校に越境入学し、担任教師の学生時代の恩師の下に下宿することになった。
美鈴や下宿先には嫌がらせや脅迫が続いたが、美鈴はこれに耐えて高校を卒業した。
美鈴は実家に連れ戻されることを避けるために、卒業式の前に下宿先の老夫婦の知人を頼って郷里を後にした。
姉の美冬は、少しづつ貯めてきた金を全て美鈴に渡し「二度と帰ってきてはいけない」と言って妹を送り出したと言うことだ。
だが、美鈴が郷里を後にして直ぐ、下宿先の老夫婦が亡くなった。
更に、美鈴の進学に尽力した担任教師と同和団体の女性も時を同じくして急死していた。
関係者の死は、事故や急病など一見普通の死因によるものだった。
だが、周囲の者は皆一様に「**部落の者に関わった報いだ」と言っていたという事だった。


305 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:22:03 ID:???0
「**部落」・・・川沿いにあったその部落は、他の地区とは大きな道路に隔たれていて、正に陸の孤島だったということだ。
50世帯程の小規模の部落で、その成り立ちは調査会社が調査しても良く判らなかった。
その地域の被差別部落は、地元の伝統産業との関わりから、それぞれの部落の成り立ちが比較的明らかだそうだ。
その地域で歴史的に地場産業の最底辺を支えていた被差別部落に、出稼ぎや密入国でやって来た朝鮮人が入り込み混住し始めたそうだ。
部落に入り込んだ朝鮮人労働者は、従来の最下層労働者であった日本人住民の更に下層に当たる最下層労働階層を形成した。
新顔の最下層労働者である朝鮮人労働者に「歴史的雇用」を奪われた部落の日本人住民の生活は困窮を極め、部落は荒れ、住環境は末期的に悪化した。
昭和期に入って技能や職能を身に付けた、或いは戦後の混乱期に経済力を付けた一部の朝鮮人移民は、劣悪な環境だった従来の部落を出た。
彼らは、元いた被差別部落周辺に、新たに朝鮮部落を形成した。
戦後、特に朝鮮動乱で祖国を捨てて流入したニューカマーの朝鮮人は、朝鮮部落内で最下層労働階層を形成して生活圏を確保した。
宋 昌成が「公営住宅獲得闘争」を行ったのは、最初に朝鮮人が流入し、労働環境や住環境が崩壊したまま放置され取り残された日韓混住部落だったのだ。
だが、**部落はその何れにも該当しない特異な部落だった。
周辺との交流が極めて薄く、いつからあったのかも、元々何を生業にして成立したのかも明らかではなかったのだ。
どの部落よりも劣悪な環境にありながら、自治体の対策事業で訪れた県や市の調査員を激しい投石などで排除し続けていた。
非常に排他性が強く、同和団体関係者を含めて、部外者が足を踏み入れるには危険を伴う地域と言う事だった。


306 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:22:55 ID:???0
宋 昌成は**部落の闇に引き寄せられて行った。
**部落に関わって不審死を遂げた者は多い。そんな危険な闇に踏み込もうとする、かつての友を駒井は必死に止めようとした。
だが、そうしている内に昌浩の事件が起こってしまった。
理由はどうであれ、道義上、親である自分が被害者の家族に謝罪しなければならない・・・宋 昌成は駒井の制止を聞かずに**部落へ向った。
駒井は宋 昌成に付いて**部落に足を踏み入れた。
**部落は異様な雰囲気だったそうだ。
駒井は、**部落で、それまで感じたことのないような、言い知れぬ不安感に襲われた。
二人は美鈴の実家に着いた。中から出てきた若い女に宋 昌成は身分と事情を明かした。
若い女『美冬』は、声を潜めて「お帰り下さい」と言ったが、中から現われた男が昌成と駒井を迎え入れた。
兄が亡くなった時点で、美鈴の家族は父と叔父、姉の美冬だけだった。
何故か、仏壇神棚の類は一切なく、美鈴の兄に線香を上げようにも、位牌・遺影もなく遣り様がなかった。
宋 昌成は美鈴の家族に昌浩の行いを詫びた。
昌成も駒井も激しい怒りの言葉を予想していたが、美鈴の父と叔父の言葉は穏やかだった。
だが、二人の眼は異様な眼光を湛えて駒井を凍り付かせた。
駒井に言わせれば『人間の目付きではなかった』と言うことらしい。
美鈴の父親は、あれは不幸な事故だったとか、司直の裁き以上のことは求めるつもりはないと言った言葉を口にした。
叔父の方も、若くして犯罪者の汚名を着ることになってしまった昌浩を心配し、父親である昌成の心労をねぎらう言葉を掛け続けた。
だが、そんな言葉の裏で駒井は耳には聞こえない不思議な『声』を聞き続けていた。
二人に言葉を掛けられている昌成は、魂を抜かれたような、呆けた顔をして頷きながら二人の言葉を聴いていた。
だが、駒井の脳裏に響く不思議な『声』の語る言葉は、恐ろしい呪いの言葉だった。
宋一族は滅ぼされる・・・これに関わってしまった駒井一族も!
駒井は恐怖に震えた。
やがて、宋家の長男が事故死し、火事で昌成の妻も焼死した。


307 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:23:33 ID:???0
駒井は、ある寺の住職に相談して、某部落の古老を紹介された。
この老人は、苦しい、未来の見えない生活に嫌気が差して故郷を後にし、ある霊能者に拾われて修行した経験の持ち主だった。
駒井を見た老人は、駒井に宋 昌成を連れて来るように言った。
駒井は宋 昌成を古老の前に引きずって連れて行った。
どこか、意識に膜が張った状態で、ボーっとした様子だった宋 昌成は、老人の裂帛の気合と共に繰り出された平手打ちの一撃で混濁した意識から呼び起こされたそうだ。
だが、意識を呼び覚まされた宋 昌成の脳裏には、駒井が**部落の美鈴の実家で聞いたのと同じ声が響き始めていた。
この、呪いの『声』は、宋 昌成が発狂するまで消えることは無かったらしい。
いや、発狂してもなお消えていなかったの見る方が正しいだろう・・・
老人は、ある朝鮮人『呪術研究家』への紹介状を書き、駒井は宋 昌成をその研究家の元へ連れて行った。
老人の紹介状と宋 昌成が調査会社に調べさせたレポート、駒井と昌成が話したそれまでの事情を聞いた『呪術研究家』は、独自のルートで**部落に付いて照会し、調査した。
**部落に付いて調査した上で、この呪術研究家が紹介した男が、駒井が宋 昌浩を連れて会いに行かせた男だった。
男は「拝み屋」金 英和(キム ヨンファ)と名乗った。

**部落は、ある『宗教団体』の信者の末裔によって形成された特殊な成り立ちの部落だった。
信仰の詳細、教団や信仰が現在も存在しているのかは判らなかった。
ただ、**部落の人間は外部の者とは交わらず、部落内だけで婚姻を続けていたようだ。
どうやら、**部落は、採石や危険な土木工事の人足のといった仕事の影で、「まじない」や「呪詛」を生業とした一族の集団だったらしい。
そのような部落に於いて、美鈴の実家は何らかの役割を担っていたようだ。
『呪術研究家』にはある程度予想は付いていたそうだが、**部落は日本全国に散らばる、敢えて言うなら『生贄の部落』の一つだった。
生贄の部落・・・
彼らは『澱み』・・・漂流する呪いや災厄、人々の欲望や怨念から生じる『穢れ』が流れ着いて溜まる、或いは溜まるように細工された土地に封じ込められた人々だった。
『澱み』に封じられた人々は外部からの「血」を入れることも、外部に「血」を広げる事も許されなかった。
彼らが『澱み』に封じ込められたのは、その血が非常に強い霊力を持っていた為だと言う事だ。
その『力』故に、民族?の名も、言語も、神話や伝承も徹底的に奪われた。
彼らの血脈が直接に絶たれなかったのは、彼らを滅ぼすことによって生じる『祟り』を祓う事が極めて困難だからと言う事らしい。
彼らは、並の霊力の血統なら3代と続かずに絶えてしまう穢れの地である『澱み』に、霊力を吸い尽くされて滅ぶまで封じられ続けているのだ。
**部落のあった場所は、地理的に『穢れ』や『瘴気』が流れ込み易いその地域にあって、それらが流れ着く『澱み』に位置していた。


308 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:24:50 ID:???0
宋 昌浩は駒井に連れられて寺に逗留していた金 英和に引き合わされた。
昌浩は、駒井と金 英和にこれまでの経緯を聞かされると、宋家に起こった不幸や服役中に見た悪夢に付いて尋ねた。
金 英和は昌浩に言った。
「宋一族には強力な呪詛が仕掛けられている。
私は君の父上から祓いを請け負ったが、残念な事に呪詛と術者の力が強すぎて祓い切る事は出来ない。
呪詛を仕掛けた人間が明らかになれば、交渉するなり、呪詛返しで凌げる可能性もあるのだが・・・」
昌浩は「呪詛とやらを仕掛けたのは、美鈴の実家の人間じゃないのですか?」と尋ねた。
「呪詛の大元は美鈴さんの実家ではない・・・いや、**部落の人間ですらない。
部落や美鈴さんの実家からの呪詛も掛かってはいるが、相手が判っている以上、こちらは大した問題ではない」
「それじゃ、誰が?」
「問題の宗教団体なのか、他の誰かなのかは判らないが、基本的に**部落の人間は、ある種の『依り代』の役目を負わされているだけだ。
あの部落では、部落を構成する『家』の間で『依り代』役を持ち回りして、当番の家を他の家が監視しているのだ。
今は、美鈴さんの実家が当番らしい。
依り代役の家の中で最も霊力の強い人間が呪詛の『依り代』役を引き受けるのが決まりということだ。
一番霊力の強かった美鈴さんのお母さんは『依り代』役をやっていて衰弱死したらしい。
次に力の強い美鈴さんが『依り代』をやるはずだったのだが、子供を作れない者・・・初潮や精通を迎えていない者は『依り代』は出来ない。
美鈴さんの次に霊力の強かった姉の美冬さんが妹の代理をしていたが、彼女は外部の人間を頼って妹を逃がした。
だが、美冬さんは部落の掟と自分達の『血』を甘く見ていた。
美鈴さんを部落の外に逃した事も問題だったが、最も不味かったのは美鈴さんが君の子を孕んだ事だったようだ」
「どういうことですか?」
「どうやら『依り代』が部落以外の、外部の胤で孕むと呪詛が滞って持ち回りの『家』や部落全体に降りかかるらしい。
それ故に、美鈴さんの兄は彼女を取り戻そうとするだけではなく、彼女のお腹の子を潰そうとし、父親である君を殺そうとした」


309 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:26:16 ID:???0
昌浩は尋ねた「それじゃあ、兄とは母は・・・。父はどうなったんですか?美鈴は?」
金 英和は答えた。
「お兄さんとお母さんは、君達の子供が亡くなったことで再び流れ出した『呪詛』によって亡くなったと見るべきだろう。
君と君の父上は相当強い霊力や生命力を持っているようだ。お父上は’まだ’生きている。
君が見たという美鈴さんの悪夢は、彼女を依り代にした呪詛の現われだろうね」
「美鈴は?」
「君が今無事でいられるのは、生まれてこなかった君達の子供の霊と、美鈴さん自身が君への『呪詛の流れ』を止めていたからだ。
一目だけでも彼女を君に逢わせてあげたかったのだが・・・遅かった。残念だ」
昌浩は泣き崩れた。

金 英和は続けた。
「泣いている場合ではない。宋一族に向けられた呪詛は今、君の父上に集中的に向いていて、君には大した影響は出ていない。
しかし、君の父上はもう長くはない。私の知り合いの霊能者が結界を張って守っているが、彼の命は風前の灯だ。
父上が亡くなれば、次は君の番だ。宋家の血脈が滅び去るまで呪詛の流れは止まらないだろう」
「・・・そうですか」
「君は死ぬのが怖くないのか?」
「家族を失い、美鈴や子供も失って、この世に何の未練があります?もう、どうでもいいですよ」
「それでは、君の父上が浮かばれないな」
「?」
「君の父上は、君を助ける為に敢えてその身に呪詛を受けていると言うのに、君がこれではどうしようもない」


310 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:26:56 ID:???0
「助かる方法があるのですか?」
「ある。だが、それには条件がある」
「条件?」
「私や、私の友人の力では君を助ける事は出来ない。
普通の加持や祈祷では、君に降りかかる呪詛は払えないだろう。
他人の力ではなく、君自身が修行して霊力や生命力を大幅に引き上げる必要がある。
その上で、君達の一族に向けられた呪詛を『引き受ける』術を持つ、ある呪術師の親子の力を借りれば君は助かるだろう。
しかし、君が呪詛に耐えるに必要な霊力を身に付けるための、修行を行う時間はない・・・」
「ならば、どうやって?」
「まもなく、韓国から問題の呪術師の親子がやって来る。
私は『契約』により、呪術師の息子が一族の業の後継者となる子を作り、次の代に引き継ぐまで、息子を監視し助ける義務を負っている。
しかし、残念な事に、私は適性を欠いていたようだ。
修行の過程で体を蝕まれ、呪術師として呪詛に触れる過程で命脈を使い果たしてしまったようだ。義務を果たす事は最早出来ない。
私は、自分が蝕まれている事を知ったときから、自分の代わりとなり得る『適格者』を探し続けてきた。
君には適性がある。
強い霊力の『血』を持つ女は、並の霊力の胤では決して孕まない。
まして、**部落の、美鈴さんの霊力の『血』は何代にも渡って濃縮された極めて強い血だ。
**部落以外の者の胤で孕むことは、極めて稀だろう。しかし、美鈴さんは君の子を宿した。
これは、君に極めて強い霊力や生命力が備わっている証拠だ。
君は私の代わりに、『監視者』たる『金』の姓を名乗って、然る時が来るまで、呪術師の息子を助けて欲しい。
私は、君の一族に降りかかる呪詛を身代わりとなって引き受けよう」
昌浩は金 英和の申し出を受け入れた。


311 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:27:45 ID:???0
昌浩は金 英和に連れられて、霊能者・天見琉奇の元に赴いた。
昌浩が着いた時には、宋 昌成は既に発狂し、衰弱し切った状態にあった。
やがて、韓国から『祟られ屋』の呪術師の親子が来日した。
昌浩は金 英和に成り代わって親子と契約の儀式を行い、父親の呪術師に息子と共に師事した。
昌浩は韓国から来た『祟られ屋』だけではなく、霊能者の『天見琉奇』、呪術師『榊』など、数多くの呪術師・祈祷師・霊能者を師に仰いで修行を重ねた。
宋 昌成や駒井の手によって保護された『美冬』は、天見琉奇に師事し、その卓越した霊力から『天見』の名と彼の教団を継ぎ、後に霊能者・天見琉華となった。
やがて、『祟られ屋』の息子は父親から一族の呪法を受け継ぎ、昌浩と共に呪術師として本格的に活動を開始した。
そんな時に舞い込んだのが、呪術師『半田千津子』の抹殺だった。
『千津子』は『美冬』とは出身部落を異にしていたが、同様の『封じられた』血脈に属する女であることが天見琉奇の霊視によって明らかになった。
『千津子』は何者かによって、その強力無比な霊力を利用され『依り代』として、呪殺の道具にされているだけだったのだ。
彼女の一族は、美冬の一族や**部落とはまた違った、巧妙な方法で呪詛の主に支配されていた。
ある種の呪詛により、思考能力を抑えられて、力の抑制や善悪の判断が出来ない『人形』にされていたのだ。
半田親子の知能障害、一旦発動すると歯止めが利かない強力な『力』は、そこに原因があったと言うことだ。
類稀な才能を認められて危険な術を託され、組織において『呪殺』を受け持ってはいたが、榊は性格に問題のある男だった。
非情になれない、特に女子供に甘い男だったようだ。
彼には、正体の明らかでない何者かに呪詛の道具として利用されているだけの哀れな女を消す事は出来なかった。
だが、彼に背後の術者を探し出す力はなく、組織にもその力を持つ者は居らず・・・天見琉奇を以ってしても特定は不可能だった。
榊は死を覚悟して、父の友人であり、弟子の昌浩や韓国から来た『祟られ屋』の息子を統括する幹部でもあった『呪術研究家』の男に後の処理を依頼して組織を出奔した。
・・・『半田 千津子』の助命を嘆願して。
榊にとって、韓国発祥の教団であり、日本の神々や呪術・霊力とは敵対する『T教団』に千津子を委ねたのは、彼女を『支配者』である術者から切り離す上での窮余の策であったのだ。
やがて、組織の命により榊は抹殺されたが、呪術研究家の「下手に千津子に手を出せば、『支配者』を失った彼女の『能力』の暴走を招き、更なる死者が出る。
下手に抹殺を図って犠牲を出すよりは、彼女を保護しているT教団と協定を結び、彼女の力を封印した方が得策だ」と言う主張が採用され、組織とT教団との間で協定が結ばれた。


312 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:28:27 ID:???0
宋 昌成・昌浩親子に『拝み屋』金 英和を紹介した在日朝鮮人実業家で呪術研究家の男・・・シンさん。
韓国から来た『祟られ屋』の息子・・・マサさん。
その父親と契約を結び、名を変えてマサさんを監視し、補佐する呪術師の宋 昌浩=キムさん。
彼らは、マサさんの一族に伝わる特異な『朝鮮の呪法』を以って、彼らの属する呪術団体の中で地歩を固めて行った。
マサさんの一族と組織の関わりはかなり古いものらしい。

以前から不思議に思っていた・・・実業家であり、呪術師や祈祷師でもないシンさんが、組織や呪術の世界、マサさん達に何故関わるのか?
俺はシンさんに疑問をぶつけた。
シンさんは答えた。
「拝み屋だった金 英和は私の息子なのだよ。
申家は、ある無茶な仕事で酷い祟りに遭ってね、一族が滅びかけた事があるんだ。いや、滅んでいるはずだった。
申一族はマサの祖父に救われたが、事業が頓挫した我々には、約束の報酬を支払う事が出来なかった。
だから、『適格者』だった私は、多額の謝礼の代わりにマサの祖父と契約を結んだのさ。
だが、私が修行に入る前に、息子が出来てしまった。
不測の事態で仕方なく、私の代わりに弟が『監視者』として修行の道に入ったが、適性を欠いていたらしく、使命を全うする事無く死んだ。
私と弟に成り代わって、申家のマサの家に対する義務を果たすべく、息子はマサの父親と契約を結んだが、彼も適性を欠いていて命を落とした。
申家の生き残りは私だけだ。
老い先短い私には、命の続く限りマサやキムを補佐する義務がある。
申家の宿命を代わりに背負った宋家・・・いや、キムにはシン家が築いて来たもの全てを託す。
その為に、私はキムを表の仕事の右腕として鍛え続けて来たんだ。事業家としても彼は優秀で、私の期待に応えてくれているよ」


313 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:30:40 ID:???0
シンさんの言葉の後、俺はキムさんに聞いた。
「適格と言うのは、例の『導通』の儀式に耐えられる能力と言うことですか?」
「マサ達が適格者を選ぶ基準は私にも良く判らないが・・・恐らくそうだろうね。
私も、マサが父親から呪法を受け継ぐ少し前に、師匠から君と同じ儀式を受けている。
金 英和は、儀式を受けた後、急速に体調を崩して寿命を縮めた。
あの儀式は相当な下準備と、生まれ持っての適性がないと致命的なダメージを肉体に及ぼすと見るべきだろうな」
「俺はマサさんと契約なんてしていない。それに、マサさんは子供どころか結婚も、女もいないですよね?」
「そうだな。君が適格者だとは思えない。君は日本人だからな。
日本人として日本の神々の加護を受けている君には、あの『井戸の呪法』関わる適性は無いと思うんだ。
肉体的特性は兎も角、霊的特性として、朝鮮民族に限られるんじゃないかと私も思う」
「何でマサさんはPではなく、俺にあの儀式を施したんだろう?」
「それは私にも判らない。ただ、確実に言えるのはP君は間違いなく候補者だったはずだ。
彼ではなく、君に儀式を施したと聞いて、我々も驚いたよ。
肉体的条件に適合しなかったようだが、P君の潜在的な霊能力は素晴らしいものがあったからね。
・・・正直、碌に準備もしなかった君があの儀式に耐えて、今も無事で生きていること自体、私には驚きだよ」 
「俺、『導通』の儀式の実験台だったんだろうか?」
「さあな。だが、アイツも相当に甘い性格をしているからな・・・そこまで、非情な行動に出られるか?
君を儀式の実験台に出来るような奴なら、多分、君があのアパートに着く前に、踏み込むと同時に千津子と奈津子を射殺していただろう。
命を落としかけてまで、あんな危ない橋を渡る事はなかったはずだ」


314 :契約 ◆cmuuOjbHnQ:2009/05/06(水) 01:31:30 ID:???0
茶碗に残った酒をグイッと一気に呷ると、シンさんは俺に言った。
「マサが何を考えているかは判らないが、いずれにしても、君は良くやってくれているよ。
君は身体の傷からも、アリサ君を喪った心の傷からも、痛みを忘れているだけで癒え切ってはいない。
本来、あんな危険な仕事を任せられる状態ではなかった。
緊張が解けて、そのうちに後遺症が出てくるだろう。
暫く暇をあげるから、今はゆっくり休みなさい。君の傷が癒えて戻ってくるのを我々は待っているよ。
好きなバイクでツーリングにでも行くと良い。思い切り羽根を伸ばしてきなさい」
 
俺が部屋を出ようとすると、キムさんが「ちょっと待て」と声を掛けてきた。
「木島の所に顔を出すのは良いが、奴には気をつけろ。アイツは、私やマサのように甘い人間ではない。
何を企んでるかは判らないが、目的の為には何処までも非情になれる人間だ。そこのところを忘れるな。
まあ、たっぷり休む事だ。
戻ってきたら、せいぜい扱き使ってやるよw」
 
俺は一礼して、シンさんのお宅を後にした。
 
 
おわり
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